「静謐な映画。 耳の聴こえない女性ボクサーが題材なのに、特別にドラマ...」ケイコ 目を澄ませて コヤスさんの映画レビュー(感想・評価)
静謐な映画。 耳の聴こえない女性ボクサーが題材なのに、特別にドラマ...
静謐な映画。
耳の聴こえない女性ボクサーが題材なのに、特別にドラマチックな展開があるわけではない。
ただ、聾唖者の生活のディテールが、細かな場面で伝わってくる。
手話に対する字幕が場面によって使い分けられた演出も新鮮。字幕でなく、演技に集中することができる。
主人公の内面が語られる場面もほぼない。
なぜボクサーになろうと思ったのか、なぜやる気(「情熱」という言葉とも違う気がする)が途切れたのか、そして試合に負けて何を思っているのか。
感情が表に出ないから、観客は、正に目を澄ませて読み取ろうとするしかない。(聾唖者同士の手話の場面では字幕もつかない。)
ラストの岸井ゆきのの泣きだしそうな笑ってるような顔に涙が止まらなかった。
エンディングも俯瞰で捉えた東京の映像に、スタッフクレジットが切り替えで載っているだけで、とことん静かな終わり。最後に縄跳びの音が少し差し込まれる。ケイコはボクシングを続けていくんだろう。それがすごく良かった。
前作もそうだったけど、三宅監督は朝焼けや夕焼けを捉えるのが上手い。
16ミリの粗い質感、高架下や線路の多い川沿いの風景、冬の曇り空、季節感とも相まって、少し虚しさもまとった感情が残る。
パンフの監督コメントにもあったが、フィルムで撮るという行為自体が、映画の画面を研ぎ澄まされたものにしている。
「日常では見逃してしまうかもしれないごく小さな心の波や、どんな言葉にもできない何かが、映画館では繊細に感じることができると思います。それを信じて作った映画です」
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