「しっとりとあったかい後味」ケイコ 目を澄ませて humさんの映画レビュー(感想・評価)
しっとりとあったかい後味
遠くの山がまっしろに雪で覆われている。
手前の山は暖色のモヘアのセーターのようにあたたかそうな色を重ねている。
そのどちらも今、みてる世界なのだが視線がたった少しずれるだけでまったく違う場所にいるような気がする。
白い雪の山のことも、紅葉がのこる山のことも、ここからみている私の持つ印象があるという事実だけだ。
その繊細な部分や本質を捉えるにはこの世は大きすぎ深すぎる。
繰り返す日々には、そんなふうに手元の何かを見つめるだけで精一杯だったりすることや、あれこれ思いを巡らしながら自分のことなのにふとわかりづらくなることがある。
でも、続けて考えなければいけない時がある。
ケイコにもおとずれたマスクの中のようなその閉塞感。
彼女ももがく。
誰かと同じく。
静かに、1人で。
しかし
腐らず、すすむ。
そう。
ケイコは強かった。
淡々と逞しく自然体のまま
葛藤に向き合う。
そこには
ハンデを測る物差しなどない。
ましてや、なにかと比較するなどナンセンスで。
無理ない距離感で他人とのコミュニケーションをとり
そのなかで、本心の通う者とのつながりがもたらすものが
考え方や進む方向に影響を及ぼすことも示す。
それは決して表立ったものだけではなく、むしろ派手さは要らずに、本人たちだけがひっそりと気づく性質であることも。
自然災害や疫病がこの世を襲う度、絆という文字をよく目にするようになった。
何度となく、絆ってきっとそれほど簡単に構築できないんじゃないかとも感じたりした。
だけど本物ならば…その絆を手にしたものには、何があろうと揺るがないパワーを授かる可能性があるようだ。
敗北の試合の録画を真剣にみていた会長。彼の穏やかさと真摯な態度にケイコは固い信頼を寄せていた。ボクシングを続けることに悩み休会を伝えようと出向いたそのときみた会長の姿にケイコのこころの揺らぎが手に取るようにわかった。
本物ならば伝わるもの。
ケイコはそっとその場を離れた。
覚悟を後押しする存在のありがたさを私もかみしめた。
そして、それをキャッチする感性こそが研ぎ澄まされた世界を生きるケイコが生きていく上での最大の武器であり味方なのだろう。
どんな状況をむかえても、最後には自分が纏う自分の道のために。
実在の方をモチーフにしたそうだが、本人になりきっていく岸井さんの情熱が映像の中にうつくしく輝きをにじませていたようにおもう。
三浦さんの役柄は暖炉のようにストレートにあたたかく、仙道さんの役柄はさらりと明るくなにげなくまわりを巡らす空気のように感じた。
あったかい後味がした。
humさん、コメントありがとうございます♪
一昔前に比べると視覚障害や聴覚障害のある方を対象にしたバリアフリー上映も増えているのでしょうが、まだまだ発展途上って感じですよね😞障害のある方専用の映画館とかがもっとあれば良いんでしょうけどね…。
『あの夏、〜』は本当に最高の映画です!
予告編も素晴らしいのでそれだけでも是非鑑賞してみて下さい♪