劇場公開日 2022年12月16日

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「なんだろうなあ、人間としての器量があるんですよ。」ケイコ 目を澄ませて 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0なんだろうなあ、人間としての器量があるんですよ。

2022年12月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

岸井ゆきの、やってくれるねえ。聴覚障害がある役なので、ほぼセリフなし。そして、ほぼ笑顔もなし。世間から距離を置いて生きているけれども、けしてはみ出しているわけではない。つまり、人に頼ることを拒否して生きているようだ。ボクシングは彼女にとってどんな存在なのだろう。どうも、強くなりたいってだけじゃないみたい。勝ちたいって気持ちは、対戦相手にじゃなくて、自分に、じゃないかと思えた。人間関係も極力避け、甘えることも捨て、まるで、媚びない野良猫のように。
音楽のないエンドロール、生活音だけが雑音のように聞こえてくる。ケイコの世界はこんな様子なのか、と思ったが、いやいや、本当のケイコの世界はこんな音さえも聞こえてこない無音の世界なのだ。いま、自分のいる世界から音が消えたらどうだろう?と想像した。そのぞっとする世界にいて、ケイコはさらにボクシングに挑んでいる。挑んでいるんだよ、ひるむことなく。器量、というか人間としての了見というか、なけりゃできないよ。すごいよ。そんなケイコを体現した岸井ゆきの、彼女もすごいよ。

栗太郎