劇場公開日 2022年12月16日

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「今週はアバターに押されるとは思うけどこちらもぜひ。」ケイコ 目を澄ませて yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5今週はアバターに押されるとは思うけどこちらもぜひ。

2022年12月16日
PCから投稿

今年364本目(合計639本目/今月(2022年12月度)17本目)。

 ※ 以下で「健常者」という場合、「聴覚障害をお持ちの方」に対しての対義語として用いる(狭い意味)ものとします。

さて、こちらの作品です。
一応、原作小説を参考にしていますが、「一部において着想を得た部分はあるが、内容はフィクションです」とでます。そもそも時代が異なる(映画内ではコロナ事情の2020~2021年が描かれているが、原作小説および、想定される「実在の人物」の方の活動時期が違う)というように違う点はかなりあります。ただ、「大筋において」は同じなのでしょう。

内容に関しては他の方が書かれているので、ちょっと別の観点から書きます。

 個人的には、この映画が良かったし多くの方に見ていただければ、と思うのですが、いくつか気になる点もあります。
ひとつは、この映画が「デフォルトで」バリアフリー上映でない点でしょう。映画の趣旨的にどうしても当事者がいかれることが想定できるのに、バリアフリー上映が朝の非常に行きにくい時間帯にしか設定されていないなどです(ただ、この点は映画館の裁量の話)。実際、趣旨内容的にバリアフリー上映であるべきものに関して字幕をつけたら誰かが文句を言うのか…というと、これだけ障がいをお持ちの方が社会に進出している今日ではちょっと考えづらく、また、それについて「字幕がいちいちうるさい」というのも何か違う気がします(映画の趣旨として、ということを特に重視した場合。本来的には「すべて」がバリアフリー上映であるべきでしょうが、今は過渡期)。こういった点(作品「そのもの」をデフォルトでバリアフリー上映にすべき)がちょっと気になったところです。

 また、海外と日本で事情が異なるものとして、こうした映画(ほか、視覚障がい等)を扱う映画は、海外ではできるだけ当事者の俳優をあてるようになってきています。いわゆる「社会的なマイノリティの方が出るべき作品に出てこない」といった問題です。このことは直接的には当事者の雇用、あるいは、間接的には「当事者から語られる、「より正確な」文化の伝え方(ここでは、ろう文化)」という論点が存在します。結局、こうした問題は、「映画や演技を学ぶ場所で、当事者に情報に接する機会の保障がない」という現状の日本の過渡期の事情があり、今は過渡期なので仕方なし…とも思えますが、「今は」であって、さらに5年後10年後もこういう、「当事者不在」のままで作品がつくられること、それ自体に少し危機感を持つところです。

 ※ なお、これらのことは、この映画の出演者の方を否定するものではありません。

 採点対象としては以下が気になったところです。

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 (減点0.3/上記にのべた事情(デフォルトでバリアフリーでない等))
 ・ どうしてもこの点は気になります。バリアフリー上映にしたところで、結局元のフィルムに字幕版がつくだけで、そもそも「バリアフリー上映回」も存在する以上、映画館はどちらのフィルムも持っているはずです。にもかかわらず、1日5回の上映で1回しかないというのは、ちょっと均衡を欠くというところです(そもそも、デフォルトでバリアフリーにしていれば、この問題は起きないので、他事考慮ではなく映画そのものへの指摘)。
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 (減点なし/参考/手話の表現の差について)
 ・ 途中で自己紹介の話が出ますが、「名前」を表す手話は関東と関西とで違います(実際はより大きく分かれますが…)。関東圏では、映画内でもあるように「印鑑を押す表現」であり、関西圏では「胸のところに指で○を作る表現」(要は、小学生の「名札」の位置に○を作る)です。

 このように手話表現そのものにも「方言」はあります。

 ※ 日本では、手話は「言語」です(改正障害者基本法(平成23)/「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段について…」)。

yukispica