「僕らは耳を澄まして、目を見開く=この結局分かり合えない世界を注意深く見る」ケイコ 目を澄ませて とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
僕らは耳を澄まして、目を見開く=この結局分かり合えない世界を注意深く見る
コロナ禍の閉塞感漂う世界で一歩踏み出すこと、何かしらの理由で壁にぶち当たって立ち止まった人々がまた走り出すまでを丁寧に描き紡ぐ日常。劇伴のない中で環境音だけが普段より大きく際立つ世界は、耳の聞こえない人を主人公に据えた他の作品の一般的な演出方法とは異なるアプローチで、観客の安易な"共感"=知ったつもりを拒む。そうやって断絶されながらも、同じなんだと知る。テンポ・リズムを刻んでは人生を踊り、駆け抜ける。
画が良くて、例えば河辺の橋の下、電車が上を通り過ぎる中で主人公ケイコがこちらに向かって歩いてくる夜のカットとか痺れた。そのカット関連で言うと、"点滅"という状態も印象に残った。母親が「もうボクシングやめたら?」と説得するときの踏切のカンカン音(だけ)、電車の通る河辺の橋の下、そして家の呼び鈴を告げる光…と順を追って、最初は光源が見えなかったものが見えて、最後は光だけが顔を照らすという(考え過ぎかもしれないけど)具合。
未来が見えなくて、語弊を恐れずに言ってしまえば息苦しい作品。でも…。分かっちゃいたけど、やっぱり岸井ゆきのが凄かった。本作を見る理由そのもの。そして三浦友和演じるコーチも良かった。監督の寄り添うような、だけど決して湿っぽくなりすぎない絶妙な距離感の中で、二人の体現するキャラクターの人生が最終的には確かに動いていた。これを見た僕らも、微かに射し込む光へと向かって走るんだ(病院、丘の上)!
P.S. 主人公の弟とその彼女のカップル、もしかして小松菜奈主演『ムーンライト・シャドウ』の氷魚の弟カップルと一緒?
コメントする