メイド・イン・バングラデシュ : 映画評論・批評
2022年4月12日更新
2022年4月16日より岩波ホールほかにてロードショー
武器はもちろんスマホ。ブラック企業に反旗を翻した若き女性工員を応援しよう
バングラデシュという国の存在を初めて認識したのは、1970年代のことでした。きっかけは、ジョージ・ハリスンがシャンカールとともにニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行った「バングラデシュ・コンサート」です。公演が1971年8月で、同じ年の12月(日本では1972年)に3枚組のアルバムが発売されました。ジャケットにはひとりの飢えた子どもの姿が映っており「ロックのアルバムなのに、このジャケットは何なんだ?」と大いに驚いた記憶があります。バングラデシュ・コンサートは貧しいバングラデシュの人々を救済するための、チャリティーコンサートだったのです(映画として公開もされています)。
およそ50年の月日が流れた2022年、そのバングラデシュから「メイド・イン・バングラデシュ」という映画が届きました。かつて世界の最貧国のひとつで、多くのサポートが必要だったバングラデシュの人々も、今では立派に職を得て、女性たちも自立できるようになりました。この映画に登場する女性たちは、カラフルな民族衣装をまとい、日本製のミシンを使いこなしていて、とても誇らしく見えます。しかし、まだまだ問題は山積み。彼女たちは低賃金で長時間労働を強いられていて、工場経営者や、そのクライアントであるファストファッション企業から搾取されている状態です。50年前よりは遙かにマシ。だけど、相変わらず生活は苦しい。映画の中で主人公シムが労働問題活動家に「5000タカ貸してください」とお金を無心する場面がありますが、ネットで調べてみると、5000タカは7250円(2022年4月現在)ほどで、それが彼女の月収相当の金額です。
低賃金にあえぐ女性工員シムは、活動家の協力を得て、労働組合の結成を決意します。工場で働く労働者みんなの力を合わせて、工場経営者に対して賃上げの交渉をするのが組合結成の目的です。しかし、シムの闘争はなかなか前に進みません。コンプライス違反を何とも思わないブラックな経営者は、卑劣な手段を講じてシムとその仲間たちを苦しめます。
バングラデシュの街並みや、主人公シムが勤める工場や、彼女の自宅の描写を見る限り、「この映画はいつ頃の話だろう?」「日本で言うところの昭和時代かな」という疑問を覚えるほど。そんなアナログでレトロなバングラデシュの風景にあって、この話が現代のものであることを示す唯一のツールはスマートフォンです。主人公シムがスマホを軽やかに使いこなすことで、ドラマをダイナミックに動かします。
女性監督案件にして、岩波ホール案件でもある本作は、今どきの若者案件でもありました。終盤、主人公シムが頭の固い役人に対して取った行動に、私は小さくガッツポーズをしました。話の展開に多少のストレスを感じることがあっても、我慢してシムを応援しながら最後まで見て下さい。
(駒井尚文)