劇場公開日 2022年3月11日

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「”You may say she is a dreamer. But…” アンネ・フランクの精神は、現代にこそ必要だ。」アンネ・フランクと旅する日記 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5”You may say she is a dreamer. But…” アンネ・フランクの精神は、現代にこそ必要だ。

2022年2月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

知的

1947年に発行されて以来、世界中で愛読されている言わずと知れたベストセラー、『アンネの日記』を原案にしたファンタジー・アニメ。

ある日、『アンネの日記』から一人の少女が姿を現す。
それはアンネ・フランクのイマジナリー・フレンドとして日記に描かれている少女、キティーだった。
彼女は右も左もわからぬ現代社会で、親友アンネの消息を探すのだが…。

映画.com様のオンライン試写会に当選したので、一足早く観賞させて頂きました!
映画.com様、ありがとうございます😊

本作を観賞するにあたり、『アンネの日記』を読んでおけばよかった…。
救いのない結末が待っていることは知っているので、どうしても重い腰が動かず、これまでの人生で避けて通ってきてしまった。
『アンネの日記』を読んでいなくてもストーリーラインは理解出来るが、やっぱり理解度は変わってくると思うので、読んでから観賞すべきだったなぁ…、と後悔。

というのも、本作が稀に見る傑作アニメーションだったから。
早くも2022年のベストが決まってしまったような気がする。
脚本は少々甘いところもあるけれど、監督の込めたメッセージやアンネ・フランクへのリスペクトが、映画全体にぎっしりと詰まっている。
アニメーションの質の高さも相まって、超ハイレベルな映像作品として、『アンネの日記』を現代に甦らせることに成功している。

本作は本当にアートディレクションが素晴らしい✨
海外の主流である3Dアニメではなく昔ながらの2Dアニメではあるが、日本のアニメーションとはかなり趣が違う。カートゥーン調と言えば良いのかな?
日本のアニメに慣れているので、初めはちょっと飲み込みづらさを感じるのだけどすぐに慣れてしまう。
のっぺりとした画風ではあるが、細部に至るまでアニメーションは超絶に滑らかで、まるで絵本がそのまま動き出したかのような印象を受ける。

非常に洒脱な作風に加え、絵柄がポップでキュートなので、アンネやキティーをはじめとしたキャラクター達に愛着が湧くこと間違い無し!

そしてキャラクターの演技が抜群に良い!!
10代の女の子の繊細な心境の機微を、身振りや瞳の動きで完璧に表現している。
キティーの体が解けてしまうファンタジックなシーンやスケートシーンなど、動きのある場面でも作画のレベルの高さが十分に発揮されている。
命なきものに命を与えるという「animation」本来の意味を思い出させてくれる素晴らしさでした👏

本作の撮影を担当しているトリスタン・オリバーさん。
超ド級の狂気的アニメーション『ゴッホ 最期の手紙』の撮影を手掛けたのも彼。
他にも『犬ヶ島』や『ウォレスとグルミット』など、いずれも一筋縄ではいかないアニメーションに参加している。
詳しい事はわからないけど、もしかしたら今世界で一番凄いアニメーションを作るのは彼なのかも知れない。

自分はまるで絵に命が宿ったかのような、ハイ・クオリティなアニメーションを観るとそれだけで涙が出てきてしまうんだけど、それに加えて本作はあの悲劇の少女アンネ・フランクの物語でしょう?
もう序盤からクライマックスに至るまで、ほぼずっと泣きっぱなし😭

よく理由も分からずに涙が溢れたんだけど、多分悲しみの涙というよりは嬉しさの涙だったように思う。
素晴らしいアニメーションが観れたことの嬉しさと、現代でもアンネ・フランクのことを愛している人たちが沢山いるんだということを知れた嬉しさ。
そして平和のために作品を残そうというクリエイターがいるということへの嬉しさ。
もちろん悲劇的な物語ではあるんだけど、アンネを大切に思っている人々の心が伝わってくる、本当に多幸感に溢れた映画であると感じました🥲

2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が開始。世界は再び戦争の恐怖に怯えることになった。
この戦争により祖国ウクライナを追われる難民は数百万人にも上る恐れがあるという。
極東の島国ニッポンに住んでいると、難民問題について人事のように考えがちになるが、これはもはや自分達にとって無関係な出来事ではない。

偶々最近読んでいた『アフリカの難民キャンプで暮らすーブジュブラムでのフィールドワーク401日』(小俣直彦 著、2019年6月、こぶな書店)によると、2017年の日本の難民認定率は0.1%。
同じく難民受け入れに消極的であるとされるイギリスの1/260という脅威の数値を記録している。
この数字の意味するところと、名古屋入管でのスリランカ人死亡事件、技能実習制度による外国人差別。
これらのことの関連性と問題の根底について、今一度我々も考える必要があると思う。

アンネ・フランクが逝去してから今年で77年。
これだけの時間が経っても、人は相変わらず殺し合い・奪い合いに夢中になっている。
この映画のことを、あまりに夢想的だと思う人もいるかも知れない。
しかし、この映画を観て平和について考えることが、次の世代の子供達に対して我々が出来る、ささやかな贖罪なのではないだろうか。

人の本質は「善」であることを信じて。
平和を我等に。

たなかなかなか