「第二次世界大戦が混沌を極めていた1943年。 ナチスドイツのヨーロ...」オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
第二次世界大戦が混沌を極めていた1943年。 ナチスドイツのヨーロ...
第二次世界大戦が混沌を極めていた1943年。
ナチスドイツのヨーロッパ戦線での侵攻は凄まじく、連合国側は押され気味だった。
打開を図るべく連合国側は、イタリア・シチリア攻略計画を進めていたが、それはナチスドイツにとっても予測可能な戦略。
敵の眼を欺くべく、英国諜報部が採った作戦は、攻略地点をギリシアに見せかける作戦。
偽の重要文書を持った英国軍将校の死体を中立国スペインに漂着させ、ドイツスパイの手で中枢部へ届けさせようという、奇想天外な作戦だった・・・
というところからはじまる物語で、そんなバカな!と驚くような作戦で、『大怪獣のあとしまつ』レベルではないかしらんとも思うのだが、これが事実だというのだからさらに驚かされる。
英国には、冒険小説からスパイ小説へという伝統もあり、冒険映画も数多くつくられているが、中には『謎の要人 悠々逃亡!』のような人を食ったような収容所脱走映画もあるので、ある種の伝統なのかもしれません。
さて、作戦の中心となるのは、モンタギュー少佐(コリン・ファース)、チャムリー大尉(マシュー・マクファディン)、作戦のアウトラインを考えたのはイアン・フレミング少佐(ジョニー・フリン)。
イアン・フレミングは「007」シリーズの原作者で、そこかしこに後の「007」に登場するモチーフが散りばめられている(Mしかり、Qしかり、マニーペニー女史しかり)。
また、モンタギューが息子の寝物語に読み聞かせるのが、ジョン・バカンの『三十九階段』というユーモアもある。
映画の前半は作戦の仕込み。
英国諜報部で偽の英国軍将校のプロフィールを作り、細部を作りこんでいく。
このプロフィールを作りこんでいく過程で、諜報部の女性秘書官ジーン(ケリー・マクドナルド)が加わり、モンタギュー、チャムリー、ジーンの微妙な三角関係が展開される。
戦下のラブロマンスというのも、映画で描かれるのは、かなり久しぶりで、安易な不倫関係に発展しないあたり、奥ゆかしくてよろしい。
また、作りこまれる偽将校の偽プロフィールは、戦争で壊れてしまったロマンス物語で、実際に繰り広げられる三角関係とのダブルミーニングがある。
根底には「戦争さえなければロマンスは続いたのに・・・ しかし、戦下だから起こったロマンスでもあり、そこがもどかしい」というジレンマであって興味深い。
さて、前半を、偽将校の死体がスペイン海岸に流れ着くまでとすると、後半は、仕込んだ偽文書がナチスドイツ中枢に届き、ギリシア侵攻をホンモノと思うかどうか。
ここでは、二重三重のスパイが登場し、英国側とナチスドイツ側との丁々発止のスパイ戦が繰り広げられるのだけれど、映画としては、若干手ぬるい。
前半同様、英国のモンタギュー、チャムリー、ジーンが中心となって描かれているのが、演出のキレを損ねたと思うのだ。
思い切って、スペインを舞台に、じっくりと描いてみせて欲しかったところ。
ただ、そうしてしまうと、上映時間が3時間を超えかねないので、後半側を端折ったのかもしれません。
スペインでのスパイ合戦がやや手ぬるい分、偽将校の偽ロマンス相手がジーンだと掴まれてしまい・・・という危機を盛り込んでいるので、なんとかサスペンス的には持った感じ。
最終的には、作戦は成功、連合国側のシチリア上陸作戦も成功と相成るわけだが、ほとんど流血騒動のない戦争映画としても成功の部類。
監督は『恋におちたシェイクスピア』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』などのジョン・マッデン。
ピリッとしたスパイスは欠けるが、素材の良さを生かした作品をつくる監督です。
故・池波正太郎が喜びそうな映画でした。