「黒澤明のオリジナル版は、日本の誇り」生きる LIVING 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
黒澤明のオリジナル版は、日本の誇り
渡米中のANAの機内で視聴。
黒澤明によるオリジナルに対し、英国に帰化したノーベル賞作家、カズオ・イシグロがリメイクに挑んだ意欲作。オリジナルとの違いは、まず場面転換により、オリジナルが143分とやや長かったのに対し、103分と短縮できたこと。
1953年のロンドンを背景にした、この映画の主人公は、市役所で課長を務める、定年をまじかに控えたウィリアムズ(ビル・ナイの名演技が光る)と、既に退職しているが、課長を導く役割を持つ魅力的な女性マーガレット(エイミー・ルー・ウッド)であるが、リメイク版では、もう一人、いわば主人公の意思を継ぐ若手として、ピーター(アレックス・シャープ)が登場する。それが、映画に別の色彩を与える。
私は、特に、ウィリアムズからピーターに託された書簡に着目した。ウィリアムズは、私がやった下町の遊び場の再生は、後世に残る仕事ではないかも知れない、しかし、働く目的を見失うことがあったら、あの遊び場を想い出して欲しいと言う。そうだ、これは、私たちが読みふけってきた山本周五郎そのものだ。
この世の中で一番大切なことは、「何をなしえたかではなく、何をしようとしたかである」
この映画を見ていて、それを思い出した。
このリメイク版を観た方は、あのカズオ・イシグロを奮い立たせた、私たちが若き日に池袋のオールナイト興行や、あるいはパリでの黒澤明特集で心を震わせて観た黒澤明によるオリジナル版「生きる(1952年)」を是非、観て欲しい。
日本の誇りである。
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