「どう生きるか?どう生きたか?」生きる LIVING 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
どう生きるか?どう生きたか?
それは人間の永遠の命題だと思います。
黒澤明監督の不朽の名作1952年公開映画「生きる」が、
2022年英国でカズオ・イシグロの脚本、
ビル・ナイの主演で映画化されました。
とても嬉しく喜ばしい出来事です。
1952年。
イギリスも未だ戦後の復興途上で配給制度も残っていたそうです。
通勤のプラットフォームには山高帽に黒い仕立ての良いスーツに
ステッキの英国紳士が「通勤は私語禁止」と整然と並び
プラットフォームに入ってくるのは蒸気機関車です。
「生きる」の主役・ミスター・ゾンビとのあだ名を
部下のマーガレットから聞いて、納得して頷きつつも内心穏やかではない
市役所の市民課課のウィリアムズ氏。
ビル・ナイほどウィリアムズにふさわしい主役はいるでしょうか?
英国のレジェンド俳優を知ったのは
「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」でした。
それからは好んで彼の出ている映画を観ました。
特に好きなのは「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」
特にハンサムとも思えないのに妙にセクシーで印象に残ります。
ビル・ナイ。彼からは、生命力の薄さ・・・が匂います。
言ってしまうと、「いつ死んでもおかしくない」雰囲気の俳優。
あまりに痩せて見えるので、健康ではないのか?と危惧する程です。
カズオ・イシグロがビル・ナイのために書いたと語る脚本。
イシグロ氏は1930〜1940年代の英国映画がとても好き・・・
そう語り、
この映画もとてもクラシックな作りになっています。
スタンダードサイズの小さな画面。
クレジットの字体、エンドクレジットも古い映画そっくりです。
イギリスは建造物が立派ですから、日本版より高級な雰囲気を
感じます。
市役所の書類の山積みはオリジナルそのまま。
公園の新設を陳情に来る婦人たちに、
最初はウィリアムズ(ビル・ナイ)が課長をする市民課、
それからは、やれ土木課→水道課→公園課→下水道課→
とたらい回しになり、周り周って市民課へ戻る。
そして書類の山のてっぺんに置かれて先送りされてしまう。
程なくウィリアムズは余命宣告を受ける。
癌のため余命は6ヶ月から9ヶ月。
彼は妻の死後、正気を失い・・・
市民課の仕事を惰性でしかやって来なかった。
彼の心の中の虚しさ、やりきれなさが募るばかりです。
市民課の仕事が性に合わない部下のマーガレットを伴って、
映画を観たりランチを有名レストランで奢ったり・・・
その内にマーガレットから叱られて、
もう一度「生き生きと輝いてみよう」
そして何度も陳情に来た案件、
「子供たちの小さな空き地を遊び場にする」に、
本気で取り組むのです。
日本版とかなりよく似ています。
特に後半の30分は会話もほぼ同じ。
ウィリアムズの葬儀から、彼の残り時間を振り返る構成。
市民課の部下たちが、
「あの遊び場はウィリアムズ課長の功績か?」
と、話し合っている。
そしてウィリアムズがいかに粘り強く交渉に当たり、
実現する過程が再現映像で描かれる。
そしてラスト。
ウィリアムズは自分のただ一つ満足して
振り返れる仕事・・・
雪の降りしきる寒い夜、公園のブランコに座り、
妻の故郷スコットランド民謡「ナナカマドの木」
それを歌いながらウィリアムズは永眠する。
「早くお帰りください」とお声を掛ければ・・・
そう嘆くポリスマンが部下の新人ピーターに言う。
「本当に幸せそうでした」と。
☆☆☆
志村喬の歌う「ゴンドラの唄」
こちらも素晴らしいラストでした。
オリジナル、途中で寝てしまい、配信あるから、と油断していたら終了していました。
Wowowで言ってましたが、レストランかで監督とカズオ•イシグロが居たテーブルのそばをビル•ナイが通りかかり、意気投合して本作ができたとか。歌いいですね。🦁