劇場公開日 2023年3月31日

「芯が変わらない見事なリメイク」生きる LIVING コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0芯が変わらない見事なリメイク

2023年4月5日
PCから投稿

わりとまんまリメイクに見えるくらい、芯の部分は変えず、英国での出来事に見事に翻案されていました。

公務員がルーティンワークに埋没し、縦割りと先送りと事なかれな官僚主義の中で「生ける屍(Mr.ゾンビ)」と言われた課長が、医師の余命宣告を受けて、自分の生き方・働き方を見つめ直す話。

黒澤明監督の『生きる』オリジナルでは、「ゴンドラの唄」を志村喬が歌っていました。
♪いのち短し 恋せよ乙女~♪
舞台が英国になった本作では、スコットランド民謡「ナナカマドの木」になっていました。
主人公の妻が、スコットランド人だったことを明らかにしていたので、おそらく妻との思い出を抱きつつ、死後に妻に再会したときに誇れるほどの仕事をやり遂げた満足感を表現してるのかなと。

また、オリジナルでは課長の葬式で、部下や関係者がまた課長の亡くなる寸前の行動や動機を疑って、責任逃れの言い訳を繰り返し、課長の手柄を自分たちのものにしていたのが、酔ううちに課長を褒めたたえ、その仕事のやり方や遺志を引き継ぐと誓ったものですが。
本作では、帰りの汽車の中で酔わずにさらっと結論に至るあたりが、英国紳士らしいというか。
その見苦しく長めの葬式のシーンが、比較して短い分、オリジナルより短くまとまっていたことはよかった。

オリジナルは日本人のダメな部分をえぐり、官僚主義の徹底した批判を籠める表現だったんだなと、再認識するのに役立ちました。

カズオ・イシグロの翻案も、ビル・ナイの演技も素晴らしく、本作はかなりの傑作だと言えるのですが、観たらオリジナルの方を観返したくなりました。
140分オーバーで、なかなかハードルが高いですけどね>オリジナル

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コージィ日本犬