「綺麗」すずめの戸締まり 大仁得さんの映画レビュー(感想・評価)
綺麗
素敵なカメラワーク、入り込みやすい世界、フレームの隅々まで色鮮やかでとにかく綺麗な映画だ。と最初は思った。
同じ様式の『君の名は』に比べずにはいられないが、君の名の素晴らしさを強調するどころか、『鈴芽』が新海の弱点を露呈してしまう。実は調べた前に鈴芽が先に作られたと思ったぐらい、新海が自分の作品のいいところが分からないような気がする。
果たして鈴芽も君の名も綺麗なのだろうか。まず綺麗とは何か。派手なカメラワークや眩しい色を使うだけでは足りないと私は思う。それより独創的なアングル、面白い照明、そしてシーンに合う色の使い方などの方が印象に残るのではないか。キラキラする空やまぶしい海に映る日差し、叫ぶような月、そういうもの自体は綺麗かもしれないけれど、綺麗=良いとは限らない。かかった時間と手間はともかく、綺麗な絵は子供にでもAIにでも作れるから。しかも本当に各フレームがこんなにピカピカでその綺麗さの意味がなくなってしまう。
新海は明らかにはっきりしたスタイルとビジョンはあるが、それを発揮するのは、内容の虚しさを隠すためなのではないかと疑っている。鈴芽はストーリーとキャラクターに楽しめるが、画期的でもない。『例のファンタジー世界』みたいな感じ。そして一見感情が溢れるように見えるが、主人公が泣いたりオーバーな台詞を言ったりしても、これもまた深みの無さを隠してくれるだけなのかな。私が好きである君の名も、もしかしてそういうものなのかな。
かなりネガティブな批評だがそうでもない。サイドキャラが親しみやすく、ユーモアもあって、あまり鮮やかではない日本が感じられる風景もあって、そして一大事、最初から最後まで退屈ではなかった。やりすぎたシーンより、新海が面白いアイデアとちょっと控えめな創造を合わせれば君の名さえよりほっこりした傑作を創れると思う。
