「おかえりなさいを言えなかった人への鎮魂歌」すずめの戸締まり 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
おかえりなさいを言えなかった人への鎮魂歌
宮崎の田舎町に住む高校生の鈴芽。
ある日登校中に「扉を探している」と言う青年と出会う。
気になって後を追いかけた鈴芽が山中で見たのは、人が住まなくなり全体が廃墟になった町。
そしてその中心には古びた扉が……
ひょんなことから青年草太とともに日本中を回ることになる鈴芽。
しかしそれは運命的な旅路であった。
自分がアニメーションが少し苦手な理由に非現実的すぎるファンタジー要素がある。
異世界転生だの魔王だの勇者だの魔法使いだの、あまりに唐突にそういう設定を入れられると全くついていけなくなる。
(まず前提として……自分はアニメには全く詳しくないし、実は『君の名は。』は諸事情により途中まで、『天気の子』も観れていない。ので、ズレていることを言っていたら申し訳ないが、アニメを知らない者の戯言として受け流してほしい。)
新海誠は限りなくリアルなファンタジーだ。
少なくとも最新の長編3本はそんな感じがする(観てないんだけど)。
よく評価されている映像美。
浮世離れした美しさではない。どこか見覚えのある日本の原風景、日本の美しい自然や都会的な街並みがベースにある。
田舎と都会、2つの日本の姿。
上京した者も田舎に残っている者も都会で生まれ育った者も。
誰にとっても入り込みやすい世界観の提供、それこそが何よりも広く大衆の心を掴むのだと思う。
そして今回のテーマは大きく言ってしまえば“地震”。
それも12年前のあの出来事をかなり直接的に扱っている。
20歳前後からそれ以上の日本人の多くがあの日をしっかりと覚えているだろう。
この地震列島に住む我々にとって、日々の暮らしと地震というものは切っても切り離せないものだ。
内容なだけに賛否ある部分が出るのも分かる。
ただ、自分は映画館で観れてよかったと思うし、アニメーション映画としてしっかりと面白いものを観れたという印象だ。
前半は鈴芽のロードムービー。
宮崎から愛媛、兵庫、そして東京。
ここまででも十分お話になるけれど、これは序章に過ぎない。
この不思議な旅は人の優しさに触れる旅であるところが印象的だった。
通して見ると日本国大称賛ムービー。
古き良き日本の文化、街並み、人の温もり。
今では少し懐かしくなってしまった「絆」とか「がんばろう日本」とかのスローガンを思い出す。
廃れつつある日本を守っていくために、スマホに夢中になっている現代人を呼び覚ますように、太古の日本から見守ってきた大地の神々が警告しているのかもしれない。
過去のものにするのではなくしっかり向き合っていく。
ただ、これがなかなか難しい問題で。
自分は直接的な被害者ではないから好きに言えているけれど、当事者にとって見れば向き合うことは何より難しい。
震災遺構を残すべきか残さないべきか。
風化させないためにも人々が生きた証にも残すべきだ。
外野はなんでも言える。
劇中にも建物の上に乗っかった漁船が出てきた。
今作のキーとなる日本各地の廃墟もそうだ。
残すにしろ残さないにしろ、12年経とうが75年経とうが復興は容易なものではない。
町の復興はもちろん、心の復興は更に難しい。
できることはそこにあった人々の想いを感じ取ること。
そうすれば必ず扉は閉まる。
地震を引き起こす存在。この作品ではミミズと呼ばれていた。
禍々しいその存在には霊体ミミズを思い出さずにはいられなくて、白石晃士監督!?と思わず声が出そうになった。
いいね、新海くん!
扉の向こうにはあの世=常世が広がる。
それはただただ美しい。
しかし、同時に危険な場所でもある。
まるで禁断の果実。足を踏み入れた鈴芽はイブなのか?
まあ、これ以上考察はしないけれど、実際ラストで話が冒頭部分に繋がるように、鈴芽と草太は何か運命的なもので結ばれたペアであったことは間違いない。
東京の一幕でのトロッコ問題。
草太1人を取るのか何万人もの人を守るのか。
答えは決まっていたんだと思う。どちらを取ってもそれが正解なんだと思う。
日本国大称賛ムービーと言ったけど、日本人的感覚も取り入れられていると感じた。
扉を越えるためには敷居を跨ぐ。
そこから先は別世界、人の家へ行くときも敷居を跨いだら靴を脱いでその世界へお邪魔する。
東京でミミズに乗っかって空へ飛ぶシーンで鈴芽は靴を落っことすけれど、それもそういったことなのではないかと思った。
これは日本人特有の感覚だと思う。
現在海外でも公開されているみたいだけど、海外の人にはどういう風に映るのか……
そして、この敷居は今回三途の川の役割を果たしている。
常人が踏み入れてはいけないライン。死の世界への線。
そこにしっかりと鍵をかけ、さらに要石で封印する。
面白い、面白すぎる。
元はと言えば…ってところもあるし(これも必然だとは思うけど)、鈴芽ちゃんは自分勝手すぎて好きになれなさそうなのに、なんか人間らしくて良いキャラだったから普通に好きになれた。
椅子、ダイジンなど、アニメならではのキャラクター造形も素晴らしい。
みかん農家の子とか兵庫のママとかもっと見たかった感はあるけど、芹沢が最高だったので◎
そりゃファンも増えるわ。
そしてプレイリストのセンスよ!あそこでけんかをやめてとか最高じゃん笑
テキトーに言いたいことを言ったけど、本当に面白かった。
アニメーション映画を観ないというのもあるけれど、ここ数年で観たアニメ映画の中では1位2位を争うかも。
近いうちに前2作も復習しなくては。