「地続きである日常」すずめの戸締まり ゆとりでにわかさんの映画レビュー(感想・評価)
地続きである日常
「君の名は」「天気の子」と鑑賞してきた中で1番今作が良かったと感じました。
賛否が分かれている作品ではありますが私は圧倒的な"賛"を送りたいと思います。
この話は被災して重く苦しい日々を変える、変えたい物語ではなく、被災したことで変わってしまった日常をかっこ付きではあるが普通に過ごしている主人公の心にある、たまに夢にでてきてしまうようなつっかえをタイトルどおり、戸締まり(心の整理)する話であると感じた。
このことは主人公と主人公を支えてきた叔母が過ごしている冒頭のシーンや、物語の道中のやり取りからもお互いがそれぞれの思いやりをもって生活していることからも感じられた。
物語中盤から終盤にかけては物語に登場するキャラクターの能力のせいではあるが、被災した親族の子どもを引き取ることを選んだ叔母の心に閉まってある誰もが考えても決しておかしくはない、考えてしまった自分を嫌悪してしまうような言葉を主人公に吐露してしまう。主人公にとってもあの出来事がなければ、叔母と生活することもなく、災害から時間が経つごとに積もる心境を表すとても重いシーンであった。
この作品が良いと感じる点にエンタメとしてのバランスがあるかと思う。
今作はとても重いテーマを取り扱っているが、道中登場する、主人公を助けてくれる人達や男主人公の友人が物語のトーンを上げている。実際、車内でかける曲には笑いが止まらなかった。
こういう作品に、笑いは不謹慎という考えももちろん間違ってないと思うが、ただただ重く苦しい作品にすればいいということではなく、災害が起きてから今日に至るまでが地続きであり、主人公のように日常を過ごしている大勢の人がいることを感じられる作りになっているのかなと感じた。
大災害を知らない世代がこの映画をみて、聞いたことはあるが、身近に感じない歴史の教科書の一文ではなく、あの出来事の日本からそれぞれの時代の日本が地続きに思ってもらえたらいいなと感じた。