「良作だが…消化不良」すずめの戸締まり 軽井沢 豊さんの映画レビュー(感想・評価)
良作だが…消化不良
どうしても気持ちを消化できないのでつらつらと書いてみる。
良かった点
・物語
・映像
・モチーフ
・キャラクター
悪かった点
・なにも尖ってない
・最後の戸締まりのシーン
物語の流れはよくできていると思った。
宮崎→四国→神戸→東京→東北と各地を渡りながらに戸を閉めていくのは、RPGのようなゲーム性があって面白かった。
映像に関しても、新海誠節が出た綺麗な映像だし、最初の30分で戸締まりをした後にタイトル画面に繋がるシーンは鳥肌モノであった。
モチーフも面白く、宮崎から日本列島を縦断する様は天孫降臨の古事記を意識しているし、訪れる各地域は地震と関係が強い場所というのを後から知ってなるほどと納得でき、物語に深みを持たせてくれた。
キャラクターの部分では、心情の深掘りはあまりされていないものの、主人公に関しては、過去の災害で身近な人が死ぬ経験をしているからこそ人はいつ死んでも仕方ないと言える頭のネジが外れた感じや、戸の向こう側の常世で自分を救ってくれた人の近くにいた人を一瞬見ていたために何年振りかに再開したときに気になって仕方ない(※イケメンに限る)といった動機づけなどが物語が進むにつれて明らかになるのは見てて楽しかった。
ただし、全体的に平凡な感じで尖った面白さは感じなかった。まるで川村元気の様な平凡でお涙頂戴な物語の締め方は、新海誠らしさがなく残念に感じた。
そして、最後の戸締まりのシーンだが、見てて吐きそうだった。
東日本大震災の津波を絵本で表現するときに黒色で塗りつぶす表現や防波堤の近くにあった主人公の家が跡形もない様などリアルな震災を浮き彫りにしており新海誠がまじめに震災と向き合った結果だなぁと思うのであまり気にしなかったのだが、戸を閉めるために当時住んでいた住民の記憶を思い起こすシーンは吐き気がした。
その土地の記憶を呼び起こすことで戸を締める仕様のため仕方ないのだが、最後のシーンで出てきた人たちはつい11年前に本当に亡くなってしまったんだよなぁと気分が落ち込んだ。
「いってきまーす」「おはよう」など何気なく過ごしてた平穏な日常の何時間後に津波で亡くなられた当時の人たちの無念さ、これから未来を担う人たちが死を覚悟する時間すらなく亡くなられた境遇、あらゆる思いを想像してしまい胸が痛くなった。
自分はまだ東日本大震災が歴史ではなく、最近の出来事として認識しているからこそ、不意に出てきた最後のシーンにリアルな共感をしてしまい、吐き気がしたのだと思う。後10〜20年先に見たらまた違った見方ができたのかもしれないが、自分にはどうしても許容できなかった。
新海誠もコメントで10代の人は震災の記憶がなく教科書の内容だからこそ今見て欲しいといっていたが、まだ歴史として認識していない人は見ない方がいいと思う。逆にいうと、東日本大震災を歴史として認識する人にとっては良い作品なのだと思う。
これに関しては東日本大震災の描写があるので注意してくださいと記載して欲しかった。恋愛伝記ファンタジーを見てたのに唐突にどうしょうもないリアルを叩きつけられた感覚は、丁度キャベツ畑やコウノトリを信じてる女の子が無修正のポルノを突きつけられたときに感じる気持ち悪さのようなもので、アニメーションというコンテンツに求めているものではなかった。(この感情になったという点においてはこの作品は尖ってたなと改めて思う)
「すずめの戸締まり」は後20年は再視聴することはないが、今後の新海誠作品にも期待していきたい。