「一般向きにチューンされたロードムービー」すずめの戸締まり コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
一般向きにチューンされたロードムービー
流石のクオリティと面白さ。
男の子が「あっち側の世界に行った女の子」を助けにいく前二作(『君の名は。』『天気の子』)の後に、本作では女の子が「あっち側の世界に行った男の子」を助けに行くの話で、かつ震災へのレクイエムを正面から描いていました。
ロードムービーとしても楽しく。
私が苦手な「いかにもRADWIMPS」って印象の曲は相変わらず受け付けられなかったけれども、陣内一真+徳澤 青弦ストリングスの美しさは素晴らしく、前二作に比べれば本編中に音楽で引っかかるところが少なくてよかった。
新海誠さん特有のフェチ(フェティシズム)表現部分が減って、また過去作のように投げっぱなしで男の子を放置するような物語ではなく。
この天災に対しての神話っぽい3作の中で、一番一般向きにチューンされていると思います。
そういう意味では、宣伝で謳っていたとおりの「集大成」のような作りだと思いました。
キャラとしては、個人的には猫神のダイジンと、神木君が声を当てている芹澤がよかったです。
ただ、一般向きで新海さんらしさの低減 ということは、=(イコール) 川村元気プロデューサーの侵食で、個性そのものの低減という気もして寂しくもありました。
また前二作からの流れで、展開が読めすぎちゃったのも残念。
要石の存在が物語の都合優先しすぎで、特にサービスエリアでのおばさんとの会話は辻褄が合わないだろうし、その内容にもドン引きした部分ではあったことは付け加えつつ。
それらがあっても、ぐいぐい進められる演出や絵作り、すずめの健気さなどで面白く感じはしました。
それと、近年、『浅田家!』『護られなかった者たちへ』『天間荘の三姉妹』などなど、3.11東日本大震災を正面からとらえる作品が増えていて、そのどれもにも当てはまるのですが……
本作のダイレクトな地震発生の表現が世間的にどう受け止められ評価されるか、まだ傷の癒えきってない方々へ心痛を与えないか、という点が気になりました。
私とて(公式webにも注意書きがありましたが)「緊急地震速報を受信した際の警報音(に近い類似音)」がかかると、エンタメだ作りものだと頭では理解していても、肉体がビクっと反応しちゃって、現実に引き戻されるんですよね。
そこが一般層への棘、否定的な材料にならないかが、不安でもありました。
この映画が刺さるであろう若い人のうち、東日本大震災すら記憶がない世代(今の十代前半)も多いので、「今もこういった悲しみが続いているし、喪失感の中で前向きに未来を生きる人々がいる」ことを伝えるという意味で、今だからこそ作ったのかもしれないですね。
震災に対して、被災者に対して、真摯に誠実に作っていたのように感じたので、私としては批判するよりもよく受け止めたいとも思いました。