劇場公開日 2022年11月11日

「無理筋はあるものの見る価値は大いにある」すずめの戸締まり k aさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5無理筋はあるものの見る価値は大いにある

2022年11月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 兎にも角にも画が強い。美しい。タイトルクレジットなんて特に感激してしまった。
「かつての人々の営み」という焦点も新海作品らしくなんともエモである。

 今は廃墟でも、かつては誰かのために作られ、誰かが生きていた場所。「いってらっしゃい」、「いってきます」、「ただいま」。それらに想いを馳せながら成される「巡礼」のロードムービーとして、心底から揺さぶられるものがあった。

 ただ今作で残念だったのは、(売れっ子監督としての責務故か)キャラクターが説明的すぎる点。
本来であれば、新海監督はキャラに多くを語らせずとも、日常の光景、動作ひとつを巧みに切り取り、その美しさを最大限引き出す演出、画力でもって語ることができるが、今回はやや大衆に分かりやすく作られ過ぎており、持ち味とも言える抒情性が薄れてしまっているように感じる。
 また、物語を作るためにやや無理筋かつドラスティックな展開があったことも気になってしまった。悪く言えばご都合主義、よく言えばテンポが良い。スケールの大きいセカイ系よりも、二人の人間の等身大の関係性を描くことの方が「らしい」な、と。(秒速ファン故の拗らせ方かもしれない)

 しかし詳細は省くが今作はあの災害以後を生きてきた私たちにとって大いに意味のある作品だったし、新海監督の作品は、観賞後の喪失感と、何気ない日常の美しさを感じられる点でやはり素晴らしいものである。
 正直、見る側があの災害に直接的な経験があるか否かで評価が大きく分かれる作品だと思う。細かいところや設定の詰め込みでミソがついたし、「完璧な傑作」という作品ではないとも感じる。
 それでも自分はまたこの作品を見に行くだろうし、今もこうして作品について文字を打ち込まずにはいられない、自分にとって忘れたくない映画となったことは間違いない。
 万人に受け入れられる作品であるとは断言できないが、ぜひ一度は見ていただきたい。

k a