「またね、友達」サバカン SABAKAN 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
またね、友達
時々、この時期に見とけば良かったと思う映画がある。
本作はまさにそう。
去年の夏、見とけば良かった…。
昨夏の公開時、口コミで評判なのは知っていた。でも地元の映画館では上映せず。
Netflixで配信になり、季節外れの今見ても期待通りの好編だったが、昨夏見てれば格別だったろう。
言うまでもなく、舞台は夏。
青い海と空の長崎のとある田舎町。
その中で出会った少年二人のひと夏の冒険、友情、別れ…。
1980年代。
“あの頃”と“友達”を、大人になった主人公が思い出す。
誰だってある決して忘れない思い出と友達。時代も舞台も違えど、我が郷愁に突き刺さる。
さあ、一緒に遊ぼう!
小学5年生の久田。作文が得意。
そのクラスの中に…
竹本。着ている服が二つしかないほどボロ家の貧しい暮らし。友達はおらず、いつも机に魚の絵を描いている。
貧乏で孤立していて、クラスの皆から馬鹿にされている。
それでも動じない竹本を、久田は“ジャッキー・チェンみたいにカッコいい”と何故か気になっていた。
ある日、突然竹本が話しかけてきた。
“ブーメラン島”の辺りに現れたイルカを見に行こう。
久田もイルカを見たいのはやまやまだが、距離があり、門限もある。
が、竹本はたまたま目撃していた久田の“百円の罪”で脅しをかけ、半ば強引に一緒に行く事に…。
朝早くに出発。久田は親に内緒で。
オンボロ自転車に二人乗り。
何とかスタートしたものの、トラブル続出。
自転車は壊れ、ヤンキーに絡まれ、海で溺れそうになり…。時折助け舟が。
たった一日の事だけど、子供二人にとっては本当に大冒険。
目的のイルカは見る事が出来たのか…?
でもそれ以上に、得たものがあった。
作品は冒険の様を全編通して描くのではなく、あくまできっかけ。
そこから始まるものがある。本作のメインはここからだろう。
冒険から帰って、二人は夏休み、毎日のように遊ぶ。
釣りをしたり、山を登ったり、みかんを盗んだり…。
毎日が、楽しい。宿題するのも忘れるほど。
お互いの呼び方もいつしか、“ヒサちゃん”“タケちゃん”に。
寿司が好きな久田。ある日竹本はボロ家に久田を招いて(多分初めての事)、手作りの寿司を振る舞う。
サバの缶詰めを使った“サバカン寿司”。旨い!
漁師だった久田の亡き父。久田の密かな夢は、寿司職人になる事。
タケちゃんならなれるよ!
作文が得意な久田を凄いと言う竹本。
ヒサちゃんなら物書きになれるよ!
サバカン寿司を振る舞って、夢を話し合って、このシーン良かったなぁ…。
どうして竹本は久田を誘ったのか、その訳も。
ツボを抑え、話は普遍的。だから、その後の展開も何となく予想は出来る。
友情育むも、些細な事で…。
竹本の家に招かれたこの時、竹本の母親にも会う。
竹本は長男。下にまだ幼い4人の弟妹。
女手一つ。スーパーで働いている。掛け持ちもしているから、弟妹たちの面倒は竹本が見ている。
その為、なかなか友達が出来ない。だから母親は、初めて自宅に招いた友達が嬉しい。
「お友達?」「仲良くしてね」。
親としてはごく自然な対応。が、竹本は不機嫌に。
後から偶然会った竹本の母親から聞いたのだが…
こっちは友達と思っているけど、あっちはそう思っているか分からない。もし、そうじゃなかったら…。
ずっと友達がいなかった竹本。何処からが友達なのか…?
そんなの友達と思えば友達…と思うかもしれないが、なかなかにデリケート。実は繊細な竹本のリアルな心情が印象深い。
別に竹本にも母親にも否や悪気があっての事じゃない。大切だからこそ、気を遣いすぎた。
だけどそれが、久田にとってはがっかり。
こっちはとっくに友達だと思っていたのに、あっちはそう思っていなかったんだ…。
何とも歯痒い少年二人の気持ちのすれ違い。
あんなに一緒に過ごした夏休みも終盤はあまり会わなくなり、二学期になってからはまた始めのように距離が…。
一度生じるとぎこちない。なかなか正直になれない。
そしてこういう時に決まって、訪れる。
別れが…。
竹本の母親が仕事帰りに事故死。自分が言った事が原因で二人が距離を置いてしまったのではと気にして…。
竹本と弟妹たちは、バラバラに親戚が引き取る。
竹本の胸中はつらいだろう。父親はとっくに亡くし、母親も突然亡くし、弟妹たちとは離れ離れに。久田ともこのまま…?
久田だってモヤモヤした気持ち。このままバイバイ…?
そんなの嫌だ!
竹本が去る日。久田は居ても立ってもいられず、駅のホームへ。
どうして距離を置いてしまったんだろう。ずっとずっと、もっともっと、いっぱいいっぱい、遊べば良かった。子供ながらの後悔。
子供だからどうする事も出来ない。突然の不幸、別れ…。
小さい身体に色々受けて、でもはっきりと確信した。
タケちゃんは友達。
ヒサちゃんは友達。
“じゃあね”じゃなく、“またね”。
私の琴線と涙腺に触れた。
もう何て、いじらしくて、愛すべき二人!
二人は演じたのではなく、あの頃あの場所にいた。
そう思わせるくらいの自然体。演技はこれが初めて! 番家一路と原田琥之佑の輝き。
二人を見守る大人たち。
久田の両親。怒らせると長崎一怖い母ちゃん・尾野真千子といつもキ○タマ掻いてる父ちゃん・竹原ピストル。この二人もベスト!
夫婦のみならず、番家くんや弟、従姉も含め、“家族”としての絶妙な掛け合い、やり取り。
今ならコンプライアンスに引っ掛かりそうなポカスカポカスカの叩き合いすらも。
口を開けば言い合いや喧嘩。でもそれが愛情深さを溢れ出す。
厳しく怖いけど、いつも全身全霊で愛してくれる母ちゃん。
冒険の朝、粋な計らいを見せてくれた父ちゃん。終盤の優しい抱擁と、さすがの歌声。
家族皆いつも、心も笑顔。
竹本の母親・貫地谷しほりも出番は多くないが、こちらも愛情と優しさたっぷり。
道中助けてくれたカップルも、竹本の親戚も、内田のジジイも、皆いい人ばかり。
大人になった久田役の草彅剛も哀愁や人柄滲ませ、アンサンブルの一人に徹している。
キン消しや斉藤由貴などの80年代カルチャー。
長崎の自然豊かな美しさ。
長崎弁も心地よい。
大島ミチルの音楽も温かく包み込む。
『半沢直樹』などのTVドラマの脚本や舞台演出を手掛けてきた金沢知樹がオリジナル脚本で映画初監督。
自身の故郷を舞台にし、誰の心にも響くノスタルジー。
元々ラジオドラマとして始まり(草彅はこの時から携わり)、諸事情でお蔵入りになったが、晴れて映画として。
出会えて良かった。
キネマ旬報ではベストテンどころか、数人しか票を入れてない。
まあ高尚な批評家様たちにとっては、何も惹かれるものがない、他愛ない、平凡で退屈な作品なのだろう。酷な言い方をすれば、凡作。
本作は凡作なのか…?
私はそう思わない。批評家どもが絶賛するような高尚な作品だけが名作とは思わない。
私にとってはこの他愛なく、ベタな作品こそ惹かれる。話に新味がなくとも、展開がベタで予想付いても、何もかも我が身と心にハマった。
そういう作品も愛される名作なのではなかろうか。
これから何年経っても忘れないだろう。
いい映画だったなぁ、と。
サバ缶を見る度に。
お寿司を食べる度に。
思い出す。
あの頃、あの場所へ。
またね、と会いに行く。
ずっとずっと、これからも、友達。
評価されない映画・・・名作のはずなのに・・・
父親の暴力がいけなかっただけのような気がしますけど、時代を反映してますよね~
それにしても、物価高騰の煽りを受けてさば缶の高いこと高いこと。100円台では買えなくなりました・・・