「非常に繊細な子供同士の関係を、見事な演技と美しい映像で描いた一作」サバカン SABAKAN yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
非常に繊細な子供同士の関係を、見事な演技と美しい映像で描いた一作
少し内気でいつももじもじしている久保(番家一路)と、一匹狼の苦労人竹本(原田琥之佑)を演じる二人の演技が非常に素晴らしく、そのやり取りだけでついつい涙してしまうほど
。特に竹本の、負けん気を発揮したときのドスの利いた声と、久保に話しかけるときのいかにも小学生らしい発声のギャップが実に見事でした。
予告編を観ると、少し遠くの島まで二人で旅する顛末を描いた、『スタンド・バイ・ミー』(1986)のような物語なのかと思っていたんですが、実はそこまでが前半部分で、後半はより繊細な二人の関係を描く場面に移行していきます。ちょっと『グッバイ、ドン・グリーズ』(2022)に似ているかも。
中盤で交わされる、久保と竹本の関係に変化をもたらすあるやり取り、そこにかかわる誰にも全く悪意がないのに、それぞれにわだかまりを残してしまう。実際にあり得る状況だけに、そしてまた、ある一言を発した竹本の気持ちがいやというほど理解できるだけに(さらにその真意を久保が図りかねる理由も)、強く胸を衝かれました。予告編では何気なく見えるある場面が、作中でこれほどまでに輝いているとは。
とはいえ演出は全体的に抑制的で、「泣かせ」にかかってくる、といった押しつけがましさはありません。さすがに一大スペクタクルを求めてしまうとやや退屈に感じられるかも知れませんが、良質なドラマを観たいという人にはぜひともおすすめしたい一作です。長崎の風景、そして家屋や服装、小道具に至るまで、昭和を強く感じさせる美術にも感心しました。よくこれだけ揃えたなー、と。
コメントする