劇場公開日 2022年4月29日

「テレビドラマの枠が越えられていない」劇場版ラジエーションハウス アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5テレビドラマの枠が越えられていない

2022年5月12日
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鑑賞方法:映画館

原作コミックは未読だが、ドラマはシーズン1、2とも鑑賞済みである。完結編とのことだったので見たのだが、抵抗勢力としての院長と、辞職を覚悟してもそれに立ち向かう主人公という話の流れはこれまでのシーズンの焼き直しであり、非常に既視感があった。また、前半と後半が全く関連のない話であり、ドラマ2本分をまとめただけのような作りもドラマの枠から抜け出せないという印象を受けた。

前半の交通事故に始まる一連の話は、トリアージと関連付けた構成になっていて、助かりそうな患者から救うというある意味冷徹な判断が描かれていた。飲酒運転の未熟な馬鹿者に自分の家族を窮地に陥れられる被害者の気持ちは痛いほど察せられたが、暴力行為にまで及んで無理難題を強要するという行動には違和感を覚えた。起こってしまったことを元に戻せとか、加害者に対して復讐など始める前に、この状況で最も重要な判断は何かということを冷静に考えるべきである。この前半部で最も不可解だったのは、妊婦がどうなったのかが完全にスルーされていたことである。どういう意図だったのかは分からないが、脚本の責任放棄にしか感じられなかった。

後半の集団感染の話もまたやや違和感があった。カンピロバクター腸炎は主に動物の排泄物等に含まれる細菌に起因する感染症であり、土砂災害で地下水が汚染されるというのは考えにくいと思う。また、原因物質の摂取をやめれば、特に積極的な治療を行わなくても、1週間程度で治癒して予後も良好である。検査技師が原因特定に懸命になるのは分かるが、判明した後で多くの医師を派遣してもほとんどやることはないはずである。

登場人物についての説明などは一切ないので、ドラマを見ていないと人物関係を深く楽しむことは難しいと思う。特に、窪田と本田の沸切らない関係は、このドラマのお約束のようなものなので、どうせまたお茶を濁して終わるんだろうと思ったが、劇場版「HERO」をパクったようなシーンには面食らった。私なら躊躇うことなく広瀬を選ぶ。

音楽は服部隆久であるが、「HERO」ほどには耳に残る曲を書いていない。演出もテレビドラマそのもので、映画らしさが薄かったのが残念だった。
(映像4+脚本3+役者3+音楽4+演出3)×4= 68 点

アラカン