「ひたすら上手くいっていない」バブル 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
ひたすら上手くいっていない
楽しめなかった。楽しませる諸々の要素が機能していなかったように感じる。
『君の名は。』を迷走させた『天気の子』をさらに大迷走させたようなオリジナル作品に見える。
企画書に載っていた言葉はまず『エアギア』『Free!』『天気の子』で、
後から軸となるコンセプトを考えて加えられたのが『人魚姫』だったと感じた。
それほど、あっちこっちとっちらかっている。
①企画
アクション世界観としてのエアギア採用はともかく、天気の子はデートムービーで、Free!は明確な女性向けである。
混ざらないどころか混ぜてはいけない洗剤を混ぜてしまった感じ。
天気の子系だと思って観に行ったら(実際、テーマや世界観は実に天気の子)、Free!的なイケメン生肌演出がたびたび挟まり困惑した。テニミュの俳優を主人公の声にしている時点で「察しろ」だったのかもしれないが、それはあまりにもハイコンテクストな仕様に思う。というか、察されて女性しか観ないのもよくないだろう。
②映像
動画を作成してくれたスタッフの頑張りは冒頭から素晴しいと思うが、キャラクターデザインがマニアックな趣味に走っているせいで、アクションシーンが「すごいと思うが、かっこいいとは思えない」シーンに終わってしまっている。
映像作品なら「すごいと思うが、かっこいいとは思わないシーン」と「すごいと思わないが、かっこいいと思えるシーン」の二者択一なら、後者の方が優れている。かっこいいと思わせたいシーンではかっこよく、かわいいと思わせたいシーンではかわいく、それは映像や演出としての丁寧さだけでなくキャラクターデザインでもかなりが決まる。本作は止めるべきキャラデザを止めなかったため、いくら頑張って作れども、映像が「すごいけどかっこよくない」「すごいけどかわいくない」の次元にとどまっている。
③キャラクターデザイン
小畑健先生は絵は上手いがキャラクターデザインは苦手な人である。
それらは、全然別系統の能力だ。小畑建先生の『ラル&グラド』の主人公とヒロインや、『バクマン』のヒロインを見てほしい。非常に癖があり、人を選んできた結果がある。
また、そもそもキャラデザへの造詣の時点で、小畑先生や本作品のコアメンバーには疑問が残る。
例えば、本作は「バトルクール」というパルクール(というより『エア・ギア』の『バルーン』)で水没した廃墟を跳び回るゲームが見せ場となるが、これに対して「動きやすい服装や髪型(スパッツ+生足)」と、「リアリティ重視だが、映像映えしないデザイン」を置いてしまっている点など。
対して、原典として敷かれているであろう『エア・ギア』は「跳んだり、蹴りを放ったときに画面として美しく見える服装(紐やら鎖やらコートやら)」が重視されたデザインになっている。今回のリアリティラインならば、クソリアリティよりもこちらが正解。
これらの違いは、チームとして「あれいいよね」と真似しようとしたものの、「なぜそれがいいと感じたのか」まで見抜けなかったという結果であり、コアメンバーは突き返さなければならなかった内容に思う。もし「まずい」と思いながらもなあなあで進めたのなら、商業における集団創作の姿勢として大きな問題がある。
④脚本
監督のキャリアを見るに、もしかして、テレビ版『進撃の巨人』について、「見所のない作品を、自分たちの超絶アクション動画でヒットさせてやった」みたいな勘違いがあるのでは? とすら感じた。
少しでもそう思う要素があるならそれは大きな間違いで、『進撃の巨人』は昨今の『鬼滅の刃』や『東京リベンジャーズ』とは違って、「アニメ化前も相当な人気を誇っていた作品」なのだ。あの絵で、しかも月刊連載で、初期から。つまり、元々キャラ立てやシナリオが抜群にいい。
対して、監督とWITSTUDIOには「脚本やキャラデザの重要度は低く、すごい映像を見せつければ進撃の巨人のように人気になる。自分たちにはすごい映像が作れるから勝てる」という誤解があったのではないか。そうでなければ、ここまでフックのない脚本を頑張って映像化しないと思う。
京都アニメーションもやりがちなミスだが、観客は「すごい映像」ではなくて「面白い映像物語」を求めている。映像技術的なすごさで勝った負けたを測るのは、業界内部の人間と、「そもそも感情移入を求めていない」極めて特殊な顧客だけだ。
本作の脚本については、「エア・ギアの世界観で」「天気の子しよう」「亜種的なフレーバーでFree!も」「えーと、人魚姫」「ラル&グラド的なのも再チャレンジしていい?」という、ツギハギ漂流脚本である。たぶんコアメンバーがあれいいよねあれいいよねの勢いで、意気投合して決定してしまったのだろう。
結果「こういうセリフ」「こういうシーン」をノルマに課せられた脚本は止まらず、感情移入や憧れを与えたいシーンでそれらの不発が続く、ずっと続くという、「無自覚に、商売としての脚本の重要性を軽視している人達が考えた、やりたいものをやりきる脚本」で着地してしまったと感じる。
それにしても、もう少しセリフを変えれば味が出たと思うのだが。
……そもそも、なぜこの尺の映画に脚本が3人もクレジットされているのかが不明。脚本の人間は増員したところでコミュニケーションコストが跳ね上がるだけで、品質向上は希である。また、虚淵先生をはじめニトロプラスの書き手は自社中心の作品以外ではあまり評判がふるわないと、ここ10年ほどで感じる。宣伝におけるインパクト重視の監督やプロデューサーに対して、脚本の重要度を説く力が弱いという弱点を抱えているのではないかと思う。
⑤歌
元々言葉を知らなかった子なので、歌に歌詞がなく、吐息のようなものだけ……
だけどそれではやっぱり「キまらない」のは、作っていて気づいてほしかった。
ヒビキが最初に教えた言葉を、旋律に乗せて歌にして主題歌に……とか、脚本回りの調整で回避すべきことだった。「歌の無い歌なんてなんだか神秘的、新しい」の逆張りだけでいけるほど甘くない。
正直、ウタの歌が挟まるたびにかなり恥ずかしくなった。歌が下手というのではなくて、制作者側の逆張り頼みにある意図が恥ずかしいと感じた。
⑥細かい所
キャラデザの弱さもあるが、主人公を含めてブルーブレイズのキャラが立ってない。
バトルクールが「食料をかけて」なので真剣味がない、熱くない。なぜなら食料はマコトたち研究チームの援助がある時点で余裕に見えるから。結果、「どうしても勝ってほしい」というような感情移入が起きない。感情移入ではなく憧れも起きないのは前述の通り。
バトルクールの内容も「走るだけ」なので、5人いても上位互換下位互換の話になっている。せめて役割分担が必要なルールに仕込もう。この雑仕様なので、最後に足手まといにしかならないメンバーを連れて行ったときは悲しいご都合を感じた。
アクションシーンの演出も、対象を中央において背景を流す形でぴょんぴょんなので、スピード感が弱い。もっとストップ&ゴーで緩急付けて、大小左右に振って「超高速の戦いをしている」絵の説得力が欲しかった。走るのもマラソン的な走りではなく、短距離走のような走りに絵作りしてほしかった。
泡に覆われた東京だが、出入り自在という時点で真剣味のない設定。出られないぐらいにしてほしかった。
人間を拉致までして立ちはだかるボスが「再生数稼ぎのため」。死んでも茶番を崩さないスタイル(でも蟻地獄や蜘蛛の巣があるから茶番に寄る方が変なのだが)。もっと核心に迫ってほしい。
一番キャラ立ってて好きになれそうなのがアンダーテイカーのリーダーというのは、他のすべてが上手くいっていないからだが、でもアンダーテイカーのリーダーは面白くて良かった。
⑦参考までに
ガラガラの映画館、中央で見たため後ろに二人。女性二人の連れ合い。
最初の30分でため息が聞こえた。
そして女性が発しがちな、無言のアドレナリン。
ここまで冒頭からずっと感情移入させてくれないとそういう反応になるよな、と思った。
コアメンバーは、作品観と商業観を根本的なところから見直してほしい。