「泡が弾けた後は何も残らない」バブル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
泡が弾けた後は何も残らない
監督は『進撃の巨人』。
プロデュースは『君の名は。』。
脚本は『魔法少女まどか☆マギカ』。
キャラデザインは『デスノート』。
音楽は『機動戦士ガンダム』シリーズ。
日本を代表するトップアニメクリエイターらが集結。
そんな豪華スタッフによる最新作アニメーション映画を、劇場公開前にNetflix配信で見れるとは得した気分!
まず配信で作品の魅力を知って貰って、劇場でこの映像美世界を体験して貰おうという戦略なのだろう。
謎の“泡(バブル)”が世界に降り注ぐ。
そんな中、東京で泡が原因による爆発が起き、巨大なドームに包まれる。
外界とのコンタクトやライフラインが一切絶たれ、ゴーストタウンと化した東京。
泡によって水没し、無重力空間に…。
特異な設定もさることながら、開幕からの映像美世界に目を見張る。
幻想的な水中、泡浮かぶ空間、水没しゴーストタウンになりながらも美しい東京の街並み…。
これだけの豪華トップアニメクリエイターが集まって、平凡な画を作る訳ないか。
そんな東京には、行き場や家族を失った若者たちが住み着いている。
彼らが興じているのが、パルクール・バトル。
幾つかのチームに分かれ、勝ったチームが欲しいものを手にする。
本作の見せ場の一つのパルクール・アクション。無重力の設定と相まって、高層ビルの屋上を駆け、空を跳ぶパルクール・アクションの躍動感。
そこにばっちりハマる音楽。
映像美×パルクール・アクション×音楽。
配信の小さな画面でも魅せるものがあったのだから、劇場の大スクリーンでの体験は比較にならないだろう。
それらは申し分ない。
…それらは。
劇場公開まで一週間を切った勝負時。
絶賛の声を集め、そのまま劇場公開を迎えたい所なのだが…、
某映画レビューサイトでは現“1.7”の低評価。本サイトでも鈍いレビュー。
ほとんどの意見が、“映像表現や音楽はいいが、ストーリーがダメダメ”。
う~ん…異論は無いかな。
何だか、結局最後までストーリー自体に引き込まれる事は無かった。
ストーリー自体は“ボーイ・ミーツ・ガール”。
バトルの最中水中にフォールしてしまった少年ヒビキ。
彼の前に現れ、助けた謎の少女。
ヒビキが属するチームに招かれ、“ウタ”と名付けられる。
チーム内で孤高のヒビキと、子供のように無邪気でありながら不思議な魅力のウタ。
次第に心を通わせていく…。
東京で再び泡による怪現象。
姿を消したウタ。
東京タワーから聞こえるウタのハミング。
泡による危機的状況の中、ウタを探し出す為、東京タワーへパルクール・アタック。
世界の運命、そしてヒビキとウタは…?
エースでありながらもチーム内で孤高だったヒビキ。が、ウタとの出会いやあるパルクール・バトルでチームプレーや仲間の絆を知る。
外界と遮断され、隔離された東京の姿は、今のアレをうっすら。
最後東京は泡が消え、かつての姿を取り戻す。崩壊と再生。
無重力で無くなった東京でもパルクールで駆ける若者たち。
泡の無重力世界が幻想なら、重力世界は現実。地にしっかり足を付けて。
様々なメッセージは込められていると思う。
主軸のヒビキとウタの恋物語。
ベースは『人魚姫』。人魚姫は王子様に恋をして、人間になる代償に声を失い、故に想いを伝えられず、悲恋で終わり泡となって消えていく。
本作では、泡が人間に恋をして…という発想。
降り注いだ泡、出会いの場となった東京タワー、東京での爆心…。
徐々に明かされていくヒビキとウタの関係に伏線張ったようだが、見事機能しているとは言い難い。
脚本がご贔屓『まどマギ』の虚淵なので期待したが、“アニゴジ”等しく外れの方だった。(『まどマギ』新作映画に期待!)
レビュー始めで言った事を舌の根も乾かぬ内に否定するようだが…、
パルクール・アクション。躍動感あるのは否定しないが、何故にパルクール…? 『進撃の巨人』での立体機動アクションを超える見せ場として設けられたお膳立てのようにも見えた。
映像美。確かにこれも美しいが、映像美×SF的な設定×ボーイ・ミーツ・ガールの作風は、これも多くの方が言ってるように、新海誠作品的。水没した東京など完全に『天気の子』。オリジナル作品を目指して、既視感だらけ。企画会議でも絶対新海監督の名が出たでしょう。“新海監督の作品のように”って。
ストーリーに惹かれない。
キャラも見た目は魅力だが、共感には至らない。
俳優やTikTokシンガーソングライター起用のド素人棒読み声演技。
映像美やパルクール・アクションも見せ場であり、指摘点であり…。
泡の如く見た目は綺麗。
が、弾けた後は何も残らない。見終わって、何も残らない。
ネームバリューばかり揃った意気込みは、泡となって消えた。