「世界の命運と自らの正義を天秤にかける時」スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5世界の命運と自らの正義を天秤にかける時

2024年9月9日
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鑑賞方法:映画館

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アニメーションの強みを活かしたスタイリッシュな映像と、MCU作品群に先行してマルチバースという設定を映画内で採用した事で、非常に評判の高かった『スパイダーバース』シリーズの続編、前後編の前編に当たる。
前作の、実写では不可能なスタイリッシュなアニメーション表現の数々にはただただ脱帽だったのだが、まさか今作でそれすらも軽々と超えてみせるとは思わなかった。とにかく終始画面に釘付けにされ、尺の長さなどまるで気にならない。また、あれだけ色彩豊かで派手な表現の連続なのに、決して観客に負担を強いらないのだから凄まじい。

前作『スパイダーバース』のキャッチコピーが“運命を受け入れろ”だったのに対して、今作では“運命に抗え”というのがまたニクい。

前作では、既にスパイダーマンが存在する世界、アース1610で普通の高校生として生活していたマイルスが、別バースであるアース42の蜘蛛に噛まれた事で能力を得てしまい、更にはその世界でのスパイダーマンが亡くなった事で、新たに自分がスパイダーマンとして平和を守る為に戦う事になった。愛する叔父を亡くすというスパイダーマンの背負う“近しい者の死”の運命に翻弄されながらも、別バースの仲間達と協力してヒーローとして覚醒した。
この点については、冒頭でスタイリッシュなアニメーションと音楽にグウェンのモノローグを乗せて復習させてくれる。
また、そこからグウェンのこれまでの人生経験と、スパイダー・フォースに参加するまでの流れが、無駄なくテンポ良く語られ、前作のラストに上手く繋がるのも素晴らしい。まさか、あの軽快なラストの背景にそんな経緯があったとは。

今作では、そうしてスパイダーマンとして誕生する為の通過儀礼を済ませたマイルスが、今後降り掛かる更なる死の運命を事前に知った事で、それに抗おうと、他のバースのスパイダーマン達と敵対しながら、運命を変える事に挑む。奇しくも、同時期に公開された別作品とは真逆の運命を選択するのがまた面白い。

時に非情な選択を迫られるのはヒーローの常だが、同時に、誰かを救う為に過酷な戦いに身を投じるのがヒーローの務めだ。警察署長に就任した父がスポットによって殺されてしまうという、スパイダーマンに降り掛かる“署長の死”の運命を知ってしまったマイルスは、運命を受け入れるよう促すピーター・B・パーカーに、「もし(あなたも事前に)知ってたら止めたんじゃないか?」と問うが、この台詞が本作を、そしてヒーローとしてどうするべきかを象徴しており、非常にグッとくる。大人になれと諭す他の成熟したスパイダーマン達に対して、マイルスはまだ親元でヒーローとしての孤独や進路について苦悩する子供、大人になりかけの状態だ。だからこそ、「せっかく誰かを守れる力を得たのに、誰かを、ましてや自分の親を救おうとして何が悪い!」と運命に抗う事を選択する。最も純粋な“人助け”というヒーローとしての使命を全うしようとする。例えそれが、この先どのような結果を生む事になるとしてもだ。

それに加えて、ラストでは自分を噛んだ蜘蛛が本来居たバース、アース42へと転送されてしまい、スパイダーマンの不在故に荒れ果てた世界で、まさかの「プラウナー」として闇堕ちした自分と体面する事になる。
マイルスは、闇堕ちしたもう1人の自分とどう向き合うのか?正義が不在のこの世界は、果たして救出に向かうグウェン達との協力の末に救われるのか?
物語はそんな強烈なヒキを残して、次回作『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』へと続く。

闇堕ちした自分との対決、自らの正義を果たす為のミゲル達との対立、マルチバースを移動出来る強大な力を得たスポットとの最終決戦と、とにかく次回が楽しみで仕方ない!

緋里阿 純