劇場公開日 2022年3月12日

  • 予告編を見る

「繊細かつパーソナルなグリーフワーク」スターフィッシュ まめもやしさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5繊細かつパーソナルなグリーフワーク

2022年2月16日
iPhoneアプリから投稿

ポストアポカリプスの世界で、喪失感と行き場のない贖罪の思いと向き合う姿を丁寧で静かに描く。その語り口ゆえ、退屈に感じてしまうのも無理はない。というのも、本作は監督自身の経験に基づいたパーソナルな話なのだ。全編に渡り、心の傷と向き合う姿を描くため、物語的な展開を求めてしまうと面食らうだろう。しかしながら、不安定な精神状態を映像化する意味では、その才能を遺憾なく発揮しているように感じた。世界を救う=自分を救うためのモチーフがミックステープというのも上手い。部屋に閉じこもり、暗い海に沈んでいった主人公が、外の世界へ踏み出し、獣の皮を脱ぎ捨てて浮上していく。唐突に差し込まれるモンスターからの攻撃は単調で捻りはないが、低予算ゆえの策としては効いている。手塚プロのアニメパートも世界観とマッチした繊細さがあった。多彩な映像表現と画づくりの上手さをこれでもかと出し切っているのが伝わり、次回作以降で魅力的な脚本と組み合わさればとんでもなく化けそうな印象があった。A・T・ホワイト監督の今後に期待したい。

まめもやし