「ルシル・ボールも破天荒」愛すべき夫妻の秘密 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ルシル・ボールも破天荒
当サイトの新作映画評論に本作の評を寄稿したので、こちらでは補完的な話を。評の中で「男性優位の業界で逆風を受けながらも才能とチャレンジ精神で成功し、女性の地位向上に貢献したルシルの生きざま」と書いた通り、テレビシリーズの主演に起用された際にキューバ人俳優の夫を共演させることを条件につけたこと、妊娠したときには劇中でもルーシーが妊娠した設定にすると提案したことなど、当時としては前代未聞の主張を貫いて見事に結果を出したサクセスストーリーに、女性ならずとも胸のすく思いがする。
ただ、彼女がすごいのは、なにも劇中に描かれた部分だけではない。夫婦で制作会社デシル・プロダクションを設立し、社長に就任(プロダクションの社長になった最初のテレビ女優だとか)。まだ再放送で儲けるという発想がなかった時代、デシルは放送後の番組の権利を保有した。のちにルシルはデジの取り分を買い取り、会社の単独オーナーに。果たして、「アイ・ラブ・ルーシー」(とその後に続くルーシーを主人公にしたいくつかのシリーズ)は、半世紀以上にわたり延々と再放送され続ける息の長い人気ドラマになった。なんという先見の明!
今年のアカデミー賞には本作からニコール・キッドマン、ハビエル・バルデム、J・K・シモンズがノミネートされているが、3人のうち受賞の目がありそうなのはやはりキッドマンか。シモンズは前に助演男優賞を受賞した「セッション」に比べるとインパクトが弱い。バルデムも悪くないのだが、キューバ人のデジ役をスペイン人俳優が演じたことに批判の声もあったようだ。単に人種が違うからというわけではなく、キューバなど中南米の国の多くがスペイン人によって植民地化されたという歴史的背景があり、キューバにルーツを持つ人々の心情を考慮して、ということだろう。近年のハリウッドは人種的正義にもますます神経質になってきている。