「理屈っぽいことを考えなければ良いと思います」アキラとあきら 福島健太さんの映画レビュー(感想・評価)
理屈っぽいことを考えなければ良いと思います
理屈っぽいことをいうなら、「あのメチャクチャなおじさん2人では、本業だってうまくいくわけないじゃん」と思います。
だって、会社の社長なんてものは、お金さえあれば起業できるし、親族経営のそれほど大きくない会社なら、単純に経営者の子供は次期後継者で、そのまま社長になれます。(かくいう僕も実家の有限会社で社長してます)
だから、能力に関係なく、本人にその意思があって、機会や幸運に恵まれれば誰でも社長になれます。
会社は社長になることよりも、社長として会社を経営し続ける方が大変です。
ある程度大きな会社で、会社を支える従業員に人材が揃っていても、あのおじさん達では、例えば作中でリゾートホテルの支配人を不当に責めていたように、トップが考えなしに現場を締め上げて、従業員が離れていくので、長くは続きません。
規模の小さなベンチャー企業なら、どんどん新しいことに挑戦して、時代に合わせた経営を模索しつつ冒険するのも良いでしょうが、歴史ある大会社がリゾートホテルの経営に乗り出すなんて危険な冒険をするのに、それを止めてくれるのがグループ会社の代表である実兄1人だけなんて。
どうして今まで危険な冒険で会社を潰すことなく、経営してこられたのか。
物語の舞台を作るところから言って、「現実にはありえないよねぇー」といって観るタイプの、フィクションのように思います。
それに、銀行員のお金の知識で経営のスペシャリストになれるのなら、経営者はみんな自分の子供を銀行で修行させれば良いです。
昔は他の商家へ丁稚奉公に行って商いを学んでから家業を継いだりしていたのでしょう?
銀行で商いを学んでくると良いです。
でも、そういうのは多くありません。
なぜか?
銀行員の知識と経験は、経営の役に立つものもあるでしょうが、銀行員の知識と経験で商売人にはなれないからでしょう。
主人公の2人のアキラさんは「とにかく優秀な人」ということなんだろうけれど、理屈っぽく「こんなことあるわけないよなぁ」と考えていると、なんだかシラけた気分になってきます。
ただ、現実問題、どの業界にも絵に描いたようなダメな人はいるもので、会社の跡を継いだ海堂アキラさんの弟は、「いるいる、こういうお坊ちゃん育ちで現実を知らないワガママ経営者」と思ったし、色々と個性的な登場人物が揃っていて、ドラマとしては面白いと思いました。
特に、海堂アキラさんがおじさん2人に手をついて謝った場面なんか、感動しました。
それまで、「ガキのくせに年長者を見下しやがって」と思っていた、「態度が気に入らないだけで、中身は大したことがない」と思っていた、侮っていた甥が、自分の前に土下座をしている。
ホントは気に入らないガキに、惨めに謝罪をさせたかっただろうに、自分達では虚栄心や空っぽな自尊心が邪魔をして、意地でも絶対にできないことを、目の前の青年はやってのけた。
おじさん達に打ちのめされて、敗れて屈辱にまみれた顔で頭を下げているんじゃない。
お父さんの残してくれた、おじさん達にとっても昔は大切なものであったはずの、素晴らしい会社のために、誇り高く土下座をしてみせる。
おじさん達は認めざるを得ません。
生意気なガキだと思っていた青年は、自分達よりもずっと、一族を大切に思っていたということを知ったら、どうしようもありません。
「俺は社長なんだから、お前達はいうことを聞け」という、立場の上下で人を動かすヘッドシップしか持っていなかったおじさん達の前で、立場なんかじゃない、自分を憎んでいる相手をさえ、信用で動かすリーダーシップを見せたのだから、素晴らしい若者です。
ドラマとしては充分に感動しました。
あまり深く考えずに自然に観ていたら、結構良いお話だと思います。