劇場公開日 2022年8月26日

「血縁のしがらみを解くのは難しい」アキラとあきら アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0血縁のしがらみを解くのは難しい

2022年8月26日
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鑑賞方法:映画館

原作は未読で、WOWOW でドラマ化されたものも見ていない。道具立ては「半沢直樹」と同じ銀行が主な舞台で、銀行の融資を打ち切られて親が会社を倒産させた経験を持つといった過去もソックリである。違う点は銀行を騙して大金を手に入れようとするような根から腐り切った人物が出て来ないところと、血縁のしがらみが重要な要素となっている点である。

銀行は見込みのある顧客には融資するが、見込みのない相手からは容赦なく資金を引き上げて回収に回る。そのやり方は血も涙もない場合が多く、劇中でも言われるように、「晴れの日に傘を押し付けて雨の日に取り上げる」というものである。他の顧客が預けた金を運用して利益を上げる商売である以上、損するわけには行かず、慈善事業でも宗教法人でもないので情に左右されるわけには行かない。

銀行から融資を受けるには、将来確実な利益が見込めるという証左を示す必要があり、それが不動本部長の言う「確実性」である。見込みの甘い計画には金は出せないし、いざ回収するとなると、病気の家族の治療費に貯めた個人預金までが対象となる。まさにどのような情実も跳ね返す鉄仮面ぶりが描かれている。しかし、これを突き崩すには、ビジネスライクに儲かるという見込みをデータ化して示せば良いので、どちらかと言えば組み易い相手である。

一方、血族によるいがみ合いほど悪臭がして救い難いものはなく、長年にわたって蓄積された恨みつらみは容易には解きほぐせず、ビジネスライクに儲かるというだけでは不十分なことが多い。血族の関係が良好に行っていれば、多少の損を被っても支えてくれたりする訳であるから、損得を超えたものがあり、一旦関係修復が必要になった場合には、ビジネスライクではうまく解決することはできないことが多い。本作では、血族の和解がキーとなる案件であり、どうやってそれを解いたのかが最大の見どころのはずである。

しかし、残念ながら、その最も肝心なところがしっかり描かれていなかったのが物足りなかった。示されていたのはビジネス的な解決法だけであり、あれだけで長年の確執が解ける理由になるとは思えない。しかもその説明はかなり雑である。ドラマ版は9回に分けて描かれているので、十分な描写ができたのかも知れないが、2時間余りの尺ではかなり無理があると思った。

子供時代のエピソードもこれだけならそれほど重要とも思えないし、入行時のシミュレーションも、粉飾を見つけただけというのでは、伝説のバトルとまで言われるのにはかなり無理がある。一方、不動本部長には最後までドライに利益だけで判断して欲しかったのに、情が分かるような話をしたのにも何だかなと首を傾げたくなった。

役者は竹内涼真の体格の良さばかりが目についた。かなり鍛えてマッチョになってるらしいが、この役にはちょっとそぐわないような気がした。横浜流星は、力を込めてセリフを言うときに声が上ずって聞こえるのが惜しかった。もっと腹に芯のある発声を心がけて欲しいと思う。タイトルに合わせたのだろうか、アキラ 100% までが出演していたのには笑った。

音楽は非常に重厚で物語の雰囲気をよく表しており、「青天を衝け」の雰囲気とよく似ていたので佐藤直紀かと思ったら別の人であった。和声の変化を少しずつずらして繋留を生んでは次々と解決するやり方は、この映画の雰囲気を良く出していたと思う。ただ、スタッフロールで流れた歌謡曲は要らなかった。演出はもっと丁寧にやるべきではなかったかと思う。
(映像5+脚本3+役者4+音楽5+演出4)×4= 80 点

アラ古希