「渋い実力派。ハーベイ・カイテルとランスキーは立ち位置も似ている」ギャング・オブ・アメリカ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
渋い実力派。ハーベイ・カイテルとランスキーは立ち位置も似ている
アル・パチーノやロバート・デ・ニーロと同様、ハーベイ・カイテルもギャングを度々演じてきた男くさい俳優だ。だがパチーノとデ・ニーロの華やかなスター性と比べると、カイテルの地味さは否めない。どちらかと言えば重要な脇役でいぶし銀のように控えめな輝きを放つ渋い演者なのだ。
そんなカイテル(現在82歳、メイクのせいもあるだろうがずいぶん顔が老け込んだ印象)が本作で演じるランスキーもまた、米国の犯罪史上特に悪名高いマフィアだが、外国の一般人にとってはアル・カポネ、ラッキー・ルチアーノ、ベンジャミン“バグジー”シーゲルに比べると知名度がかなり下がるのではないか。映画で描かれるように、ランスキーは子供の頃から数字に強く、マフィアに企業経営を応用して組織を近代化し、カジノ経営でも大成功した。知的で用心深く、冷酷な面もあったランスキーだが、敵対勢力を次々に倒す武闘派や、賭け事や女遊びで豪快に生きる顔役に比べると、やはり映画の主人公としては少々地味な印象を受ける。ギャング紳士録におけるランスキーと、「ギャングを度々演じた俳優リスト」におけるカイテルの立ち位置は似ている気がする。理にかなったキャスティングと言えるかもしれない。
監督・脚本は、本作が長編2作目のエタン・ロッカウェイ。父親が生前のランスキーにインタビューしたそうで、父親をモデルにした作家ストーンをサム・ワーシントンが演じている。年老いてマイアミで楽隠居中のランスキーがストーン相手に語る回想が、そのままランスキーの人生の振り返りとして描かれる構成だ。ただし、噂されるランスキーの隠し財産を探るため、FBIがストーンに接触してくるので、ランスキーがマフィアの世界で成り上がっていく過程を描く回想パートだけでなく、ランスキーとFBIの間で揺れるストーンの現代パートにもサスペンス要素が加味されている。
ロシア系ユダヤ人移民だったランスキーが、第二次世界大戦中は米国内に入り込んだドイツ側スパイの摘発に協力した話など、米国の裏の歴史を知る面白さもある。ギャングを扱った近年の映画では、スコセッシ監督の重厚な「アイリッシュマン」、ジョシュ・トランク監督による変わり種の「カポネ」などに比べると、やはり地味ではあるものの、手堅くまとめた印象だ。