「1969年、僕たちはベルファストにいた」ベルファスト コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)
1969年、僕たちはベルファストにいた
1 1969年のベルファスト。バディ坊やと周囲の人々との日常を通して、故郷と家族への想いを綴る。
2 時代背景となる1969年は、映画の舞台となる北アイルランドでは住民間の対立が先鋭化していた。劇中、プロテスタントの過激派がカソリックの家を襲撃し、地区住民がバリケードを築き、地区の出入りをチェックする様子が描かれていた。信教の自由のあるわが国では理解しがたいところではあるが、国の成り立ちに係わる根深いものがあるようである。こうした中にあって、バディ一家もプロテスタントであるが、父親は穏健的で対立を良しとしない。バディも初恋の相手はカソリックの家の子であり、分け隔てはしない。またバディに万引きをそそのかし、過激派の示威運動への参加を勧める悪い仲間がいるが、闘争の最中で逃げ遅れそうになったところで、一家の庇護に飛び込んだ。分断と対立に異を唱え、寛容の精神を唱える監督のメッセージがよみとれる。1969年を映画の背景としたのは偶然ではないであろう。そして終局でスクリーンに表される3つの言葉は故郷に向けた鎮魂と哀惜のことばとなっている。
3 バディ一家は、経済的には恵まれていないが、家族としてはイケていた。母と父は税の支払いや子供との関わり方で喧嘩することがあるが、仲睦まじく歌い踊り、底抜けに楽しむところもあり、その様子を見て笑みが溢れるバディの顔は多幸感に満ちていた。子供と本音で語り、家族として纏まっていた。また、祖父と祖母はバディの良き相談相手となっている。この二人からバディは多くのことを受け継ぐことができたのではないであろうか。
4 冒頭の街の紹介にあった建物の煉瓦色が印象に残り、モノクロの淡さが心地よかった。最後に、この時代を示すのに、家族の団欒の中に、スタートレックやラクウェルウォルチ、サンダーバード、チキ・チキ・バン・バンが出てきたことにニヤリと反応してしまった。