劇場公開日 2022年3月25日

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「ケネス・ブラナーの創造性の源泉ここにあり」ベルファスト 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ケネス・ブラナーの創造性の源泉ここにあり

2022年3月26日
PCから投稿

ブラナー監督は自らの屈託のない幼少期を描いた小さな物語が、まさか世界中の観客を虜にするなんて想像したろうか。ライフワークのシェイクスピア物はもちろん、「シンデレラ」から昨今のクリスティ物に至るまで、多くの原作翻案で知られる彼。オリジナル企画として放たれる本作は、そのオープニングから懐かしい時代、愛すべき故郷へと回帰していく穏やかな思考の流れが、一つの映像として芸術性豊かに刻まれている。ある時は、家の前の封鎖空間を舞台劇のようなタッチで描き、またある時には映画にしかなしえない内面へのクローズアップ、かと思えば日々激化する対立をパワフルに見せ、次の瞬間にはそれを上回る力強さで人の絆や思いやりをしっかりと紡ぐ。モノクロ映像の中に浮かぶ家族一人一人の表情、セリフ、思い出が胸を締め付ける。特にジュディ・デンチのあの言葉には思わず泣いてしまった。ほんの100分足らずの作品だ。でも本当にいい映画を見た。

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牛津厚信