劇場公開日 2022年4月1日

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「実写とアニメーションの活かし方」やがて海へと届く 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0実写とアニメーションの活かし方

2022年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

生命の流転が私たちの生きる社会の日常レベルで描かれていることにおどろいた。震災の日から戻らない友人を想う主人公の旅を通して、観客がたどり着くのは、生命は自然に還り、海を経て、そこかしこに偏在しているという万物を見通す視点だ。そのことを描くためにアニメーションが決定的な役割を果たしている。震災で死んだと思われる友人は主人公にとって決定的な喪失だったはずだが、彼女の残したビデオ映像という記憶を記録する装置と、自然に還り、変化してゆく生命のあり方という二つが主人公の人生を前向きなものにしていく。固定された過去の記録映像を実写、自然に還り変化していく可塑的な生命はアニメーションで表現する。現実を切り取り固定化する実写と、変化するものを描くアニメーション。実写とアニメーションの両方の素晴らしさを最大限に活かしている。記録という点では震災の経験の語りを記録するシーンも示唆に富んでいた。しかし、記録できずに流されていったものもある。それをアニメーションで描いている。中川監督は新世代の作家の中でも本作で一つ抜けた存在になったと思う。

杉本穂高