「誰しも持っている人間の二面性」やがて海へと届く ちーたらさんの映画レビュー(感想・評価)
誰しも持っている人間の二面性
「私たちには、世界の片側しか見えてないと思うんだよね。」
岸井ゆきのさんが演じる真奈がある理由で姿を消してしまったすみれ(浜辺美波)のいない世界とどう向き合い、どう成長していくのかを描いた物語。
初めに言っておくとこの映画は"ガワ"だけ見せて情報を与えた上で、解釈は鑑賞者に委ねるタイプのものなので好き嫌いは別れるかもしれないです。私はこの手の行間を読ませて、尚且つ深いテーマを描いた作品は大好きなのでかなり高評価でした。しかし中盤までは細部まで練られた作りなのか、それっぽく見せてるだけなのかが怪しい感じだったのが、ストーリーが進むにつれて「そういう事だったのね…」と感嘆してしまうような作りになっていて、思わず序盤から見直したいと思うほど練られたものになっていました。
冒頭で書いたのはこの作品のキャッチコピーなのですが、これはまさに作品そのものを捉えたもので、それを上手く体現した浜辺美波さんの表現力が圧巻。目を泳がせるシーンや、杉野遥亮さん演じる遠野と話すシーンでの表情の変化は本当に言葉以上の何かを感じました。
人間誰しも親しい人にも見せない面があったり、表で見えている姿がその人の本性とは限らない。作品を通して一貫して描かれるその部分は「青くて痛くて脆い」や「桐島、部活やめるってよ」に近いところがあり、観ているうちに自分の経験に重ねてしまい、どうしても主人公の真奈に感情移入せざるを得ませんでした。
鑑賞してもなお、正直すみれが普段何を考えていたのかは推測の域を出ませんが、真奈にとってすみれはかけがえのない存在だったわけで、失って初めて気づく後悔や、虚無感、喪失感は大事な人と会えなくなった(失った)ことのある人であれば真奈の気持ちには誰しも共感できるはずです。タイトルの「やがて海へと届く」の意味が分かったとき、今までの会えなくなった人達との思い出が蘇ってきて思わず涙してしまいました…。冒頭から始まるWIT STUDIOが紡ぐ美しいアニメーションもどこか幻想的で、でも現実的で、、言葉にできないくらい魅了されましたね。
本当に素晴らしい作品でしたが、観る人によってかなり感じ方が異なる作品だと思いますので、ぜひ多くの方に観ていただき、各々の映画体験をして欲しいと思います。