劇場公開日 2022年9月23日

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「さぶいぼ、いや鳥肌がたった。異形(あくまで人間にとってだけど)の世界と日常の世界とが共存できるのはアイスランドの壮大な自然故か、映画のミラクルか。アダの視点から見ると哀しい物語...」LAMB ラム もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0さぶいぼ、いや鳥肌がたった。異形(あくまで人間にとってだけど)の世界と日常の世界とが共存できるのはアイスランドの壮大な自然故か、映画のミラクルか。アダの視点から見ると哀しい物語...

2022年11月3日
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鑑賞方法:映画館

※2022.11.06 二回目の鑑賞。
①ホラーと言ってしまうとアダが可哀想だ。彼女?には罪はないのだから。それにアダは映画が進むにつれてだんだん可愛く思えてくる。
②半獣半人や、人間と人間以外のもの(神とか、妖怪とか、宇宙人とか)との間に生まれたもののお話は決して珍しくはない。ギリシャ神話ではケンタウロスやヘラクレスだし、鬼太郎だって犬夜叉だって半妖だし。ただ、神話やマンガ、アニメの世界なら違和感なく受け入れられるのに、日常風景の中で違和感なく実写化するのは難しい。それをこの映画は成功している。
③冒頭何かが羊小屋に侵入してくるシーンは確かにホラーっぽい。そして、“それが何だったのかという興味で最後まで引っ張っていくのも巧い。” 全編に漂う不穏な雰囲気は何処からか誰か(何か)が夫婦の生活を覗き見しているような視線から来ているような、そして衝撃的なラストでカメラの目が“それ”の目だったことが分かる。
④マリアは孕む筈のない羊が妊娠していることがわかって不可解な顔をする。そう言えば、何か分からないものに羊が孕まされたのはクリスマスの夜。処女懐胎ではないし、クリスマスはキリスト生誕の日でマリア(奇しくもヒロインと同じ名前)が孕んだ日ではないが、アダとイエスとをダブらせていると見るのは穿ち過ぎだろうか。
⑤羊犬の吠え声(“あれ”の気配にいつも一番早く気づいくのだが、それが命取りになる)で羊小屋に行った夫婦が孕むはずのない羊から生まれてきたものを見て厳しい表情でお互いに顔を見合わすシーン。あそこがこの映画では最も心理的瞬間だろう。あそこを失敗すると映画全体のリアリティが崩れてしまう。
大体どのような子が生まれてきたのかは察せられるが、第一章の終わりで初めて視覚化された時はやはりドキッとさせられる。
⑥この映画で最もホラーなのは、マリアが産みの母である羊を撃ち殺し埋めるところ。その前にもアダを追いかけてくる母羊に向かってマリアが鬼女さながらに怒鳴るシーンがあるが、アダは死んだ子供の代わりに授かったものだから邪魔物のその産みの母は殺していいのか(羊だから殺して良いと思ったのか)。異形なのは人の心の方かも知れない。
⑦巧いと思ったのは次のシーン。イングヴァルとピョートル(英語ではビーターですかね)とマリアがTVで何か(何のスポーツが二回目見ても分からなかったです)を見ているシーン、どこの国でも見かけるとても日常的な描写が巧い。アイスランドチームが負けてしまったので口直しにピョートルの若き日のMVをかけてみんなでダンスしている。そのごく日常的な風景の一方で家の外に出たアダが初めて実の父親に邂逅して(もちろん父親はまだ移さない)父親の真の姿を見てしまう。その後家の中に戻ったアダは鏡を見て自分のアイデンティティーに初めて気付くシーン。
⑧産みの母親を殺したのが育ての母親だったから、実の父親が殺さねばならなかったのは育ての父親であったという苛烈なラスト。死に行くイングヴァルに一緒に寝ていた時の様にすがり付くアダが哀しい。そして実の父親に手を引っ張られてイングヴァルと繋いでいた手と手(アダの方は“前足”だったけれど)が離れた時の哀切さ。
妻の幸せを守った故に犠牲となったイングヴァルの死体を抱いて泣き叫ぶマリアの胸に去来するものは何だったのだろう。

もーさん