「時間の感覚が無くなる陶酔的体験」LAMB ラム じきょうさんの映画レビュー(感想・評価)
時間の感覚が無くなる陶酔的体験
アイスランドののどかなはずの田舎は微妙な緊張感を孕んで、弦楽四重奏の重層的音楽と相まって不穏な空気だ
最後に流れるパッサカリア(多分、シャコンヌかもしれない。聞いたことがあるがこれとはっきり言えない)がこの寓話的なホラー(と思います)を締めくくるにはぴったりだと思いました。予測のつかない体験的空間。無音と有音、自然音と羊の鳴き声、白夜のせいで時間の感覚が失われ、長くもあり短くもあるような(実際は105分程度のやや長めの映画)不思議な感覚を感じましたね。どこか異世界の雰囲気を纏いつつ二重の不幸をこの夫婦に負わせる意味とは何かと翌日になっても少し重い気持ちを引きずりましたね。
ここからは映画の内容に踏み込みます。
冒頭のホワイトアウト。ズームするまで何があるのかさえ分からないほどの息詰まる空気感。本当ここは息ができないほどの緊迫感だ。三章仕立ての第1章ではセリフはほとんどなく、羊が鳴くのみである。しかし、主人公の羊牧場(羊飼いだと誤解を招く)を経営する夫婦(イングヴァルとマリア)にそこはかとなく漂う緊張感が胸苦しい。ここでは諦観に満ちた生活を丁寧に描く。この辺り、日本人俳優の不自然な自然体演技とは一線を画す。第1章の最後に生まれてきた羊の子がターニングポイントとなる。
なぜか、夫婦は子羊を母親羊から離し自宅に連れて行ってしまう。ミルクを飲ませベッドに寝かせ、抱き上げてはまるで子供のように扱う。この辺りで「手足のない仔羊が生まれたのかな」と思ったよ。アダと名付けられた仔羊はある日母親羊にさらわれてしまった・・・。あの程度の四つ足の獣がさらうのは変な話なので、後で出てくる「あいつ」がそうしたのか?
無事取り戻したが、この時、アダの秘密がようやく(映画の半分くらい)明らかになる。正直、気持ち悪い。しかし、どうやらこの夫婦にはアダという一人娘がいてなんらかの理由で失ってしまったようだ。(墓や父親の描写で明らかになる)。
ここからは未見で、今後見る予定の人は読まないほうがいいと思います。
平穏な暮らしに闖入者あらわる。
パンク風のおっさんが現れ、夫婦の家に忍び込んでくる。
観客はみんなハラハラしたことだろう。こいつ誰やねん。
辺鄙な田舎だから誰にも見つからないと思っていたら、異常な存在であるアダは誰にも知られてはならないはずだからだ。
しかも、こいつはマリアが母親羊を撃ち殺すところを目撃してしまう。(この時点ではアダの母親だとは気づいていなかったと思うけど)
家族として迎えられたが、当然アダと夫婦には不審の目を向ける。実際、アダを撃ち殺そうとするしね。
夫婦の愛情は本物だったし、人間のアダを失った悲しみを知っているからこそ受け入れるところはよかった。アダと共にソファに寝ているところなど打ち解けてほっこりした。
第3章
万事うまくいくかと思われたある日、アダを連れておっさん(実は旦那の弟)が湖に漁に行く。その後ろ姿を見ながら幸せそうに愛を交わす夫婦。帰ってきてからも食事やスポーツ観戦(アイスランドではハンドボールが盛んなんだね)をして楽しく過ごすが、寝てしまったアダと夫を横目に、クズ弟はマリアに不貞を迫る。怒ったマリアは追い出すことを決意し、バス停まで送り届ける。
その頃、不審な死を遂げる犬。??????????
目を覚ましたアダとインクヴァルは朝ごはんを食べて、故障したトラクターを治しに行こうと連れ立って家を出る。いつもだとすぐに飛んでくる犬はいない。マリアが帰ると誰もいない。探し回るマリア。響く銃声!
首を血まみれにして苦しむインクヴァル。それを悲しそうに見つめるアダ、その傍には・・・。
そもそも、半人半獣の生物が産まれた時点でファンタジーではあるのだけれど、寓話としては意味するところがわからない。この夫婦が何をしたというのか。なぜ殺されなければならないのか。アダを連れ去るあいつは誰なのか。これでは全くの暴力ではないかと不条理さに打ちのめされる。最後の曇天を背景に悲しみに打ち勝つように立つマリア。全てを失った彼女はこれからどうするのか?などと考えながら長いワンショットでエンディングを迎えた。謎だ。
今晩は
コメント有難うございます。
これは、私が思った感想ですが、”アダ”は”この世のモノとは思えない”羊の王の子供だと思って観ていました。冒頭からのホワイトアウトのシーンの目線はこの世のモノとは思えない”羊の王”だと思いましたし、羊の飼われていた畜舎の扉が開いていたシーンのクローズアップからも確信しました。
羊は、”犠牲”の意味合いがありますが、今作では”アダ”を産んだ羊の眉間にライフルで銃弾を撃ち込んだアリスへの恨みが、”この世のモノとは思えない”羊の王の復習ではないかな・・、と思いながらアリスの愛する夫を殺す事が最大の復習なんだろうな・・、と思いましたね。では。
スマホご教示イイねありがとうございました。それにしてはのどかで不気味な映画作品でした。最後はお父さんの登場が唐突で意味わからなすぎて、かえって「チカラワザ」感を遥かに凌駕、超越していて、伏線回収もへったくれも無い、印象に残る名作【というより迷作】でコレはコレで良いのかなぁと思いました。またよろしくお願いいたします。🙇♂️\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )/