「アダちゃんのグッズ欲しい」LAMB ラム Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
アダちゃんのグッズ欲しい
いかにもA24が欲しがりそうな作品だ。過去にも複数あった評価がきっぱり別れる作品になるだろう。一応ホラーと名打たれる本作だが、分かりやすく怖いと思うシーンは一切なく、静かながら不気味な世界観となっている。いわゆる「雰囲気系」のホラーであり、ビクつきながら観るエンターテインメントとは違う感覚となる。だが、決してホラー初心者向きとはならない作品だろう。恐らく、トラウマにも似た感覚を覚えるか、人生の2時間を無駄にしたと思うかのどちらかになるに違いない。不気味な演出と広大なアイスランドの自然(住んでみたい)を芸術的な表現で描いている本作だが、上映開始から30分程はほとんど台詞が無く、ひたすら羊を育てる夫婦の日常が淡々と描かれている。続く静寂の中で夫が放った最初の台詞が、記事に書いてあったタイムリープの話。こちらは張り詰めた空気を感じていたのだが、その滑稽とも言える一言目に思わずガクッとずっこけそうになった。だが、この様な何気ない会話の中や演出の中でふと気になる物が挟まれる。そのシーンが何を意味しているのか、どう後半に生きてくるのか、理解する前に暗転していく。この様に細かいパーツを回収していくかのように淡々と日常が描かれていき、それらが張り裂けそうな不気味さで包み込まれ、非常に息の詰まる思いだった。冒頭に響く誰かの荒い息遣いから、今にも八つ裂きにされそうに思える羊たち。観客としては来るか来るかと身構えていると見逃しそうなシーンが複数存在する。個人的には映画は1人で楽しむべきと考えているが、本作は鑑賞後に答え合わせをしたくなる作品である。本作のジャンルを表すのにホラー以外の物が見つからないが、「怖くないのに怖い」や「何も無いのが怖い」と思ったのは本作が初めてである。テレビCMでは問題の子羊、"アダ"に服を着せ、二足歩行をする姿が写っている為、大抵の人が羊人間なのではと思うだろうが、本編ではその姿がなかなか写らず、しかもチラッとしか見せないという何とも意地悪な描き方を披露する。ネタバレしているものをこういう描き方をしたのも素晴らしい。映画においては説明不足というのは致命的な欠点だと思うが、その弱点を生かした構成には驚かさせる。そんな何かと初めてづくしだった本作だが、かなり実験的な作品にも思える。これは是非とも手元に置いておきたい作品だ。