朝が来ますようにのレビュー・感想・評価

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5.0「イスラエルIDを持ってるパレスチナ人でもそれがないパレスチナ人でもおんなじさ、パレスチナ人はパレスチナ人だ」

2024年2月14日
PCから投稿

泣ける

笑える

興奮

イスラエルーパレスチナ人であるサイード・カシュアは「Dancing Arab」の作家で、ジャーナリストだけでなく、コメディアンかと思うほど、作品の中にもコメディーぽいシーンを入れてるようで、サイードのコメディアンぶりをイスラエルのエラン・コリリン監督が時代を先に進めて(サイミが丘の上から『壁』を見るシーンがあるが、私の理解ではイスラエルが境界の壁建設続行中の時代のように思える。わからない。)上手く表現しているようだ。この映画にも政治・社会風刺が生きているから時々ゲラゲラ笑ってこの映画を見た。しかし、今、悲劇的なストーリーは現実に起きている。水も、電気もイスラエル政府がコントロールしているだけでなく、ウェストバンク自治区と言われてもイスラエル政府の配下の中にあるようだ。 政治的(パレスチナ人の間・イスラエルとパレスチナ)、サイミの自己アイデンティティの葛藤、大家族の思想の違いからくる口論や隔たりや愛、また、夫婦愛の修復、兄弟愛と戸惑い(サイミと結婚したばかりの弟)などと、言い出したらキリがないほど幅広く深く掘り下げた映画だ。興味深い秀作だ。多面的思考でレビューを書くとしたら、書くことが多く長すぎてしまう。状況説明を入れて、主人公サイミの心の中を私なりに追ってみたい。自己確認・帰属意識(Self- Identity )が圧巻となってるので書き表したい。そして、旧友アベッドAbedの犠牲的精神(私の解釈)について触れたい。 主役はサイミ(SAIMI)Alex Bakri で、エルサレムでコンピューターエンジニアとして働いていて、妻と息子が一人いる。彼は弟Aziz(Samer Bisharat)の結婚式でウェスト・バンクのある村に家族で戻ってきた。サイミの頭の中はエルサレムに戻って、浮気をしているユダヤ人に会いたい一心で、サイミの弟が、『結婚式中テキストをしていたね、女がいるの?』と聞いているくらいだから。それに、結婚式で鳩が飛び立たないシーンには笑ちゃった。鳩はめでたい印なのに何かを予期していて 飛び立たないのかもしれない。それが、境界閉鎖に結びつく。結婚式後、エルサレムに向かって帰途を急ぐ途中、息子が結婚式で学んだ新しい言葉の意味を聞く。『Daffawis』といういう言葉で、私も知らない言葉だったが、母親ミラは(ジュナスレイマン)が、『私たちと同じパレスチナ人だよ、悪い言い方をするなと』さすが、母親の言葉は光る。 この意味はウエスト・バンクの不法移民のようなものであると思った。この映画ではサイミの家族や村人はこれらの人々のせいで、イスラエル軍に閉じ込められてると思っている。それはウェスト・バンクで不当な扱いをされている、どこからかきたアラブ人のことを言ってると思っている。境界閉鎖の真相は誰もわからないにも関わらず。しかし後で、調べたことによると、サイード・カシュアは下記のように言っている。私の理解にも不信感が募ったので、『Daffawis』と不法民でないパレスチナ人の違いを説明するサイード・カシュアの言葉で見つけたので引用する。『この村にはヨルダン川西岸からの不法労働者のグループがいる。 権力を握った悪党たちは、これらの不法労働者が封鎖の原因であると考えていて、彼らをイスラエル人に引き渡そうとしている。」と。それに、サイミの旧友アベッドはアメリカがイランを攻撃する準備をしているという。だから、イスラエルはアラブ人を見下していると。真相は何にもわからなくても、イスラエル側から何も情報が入らないし、掴む手立てもないようだ。 長女の伴侶も含めたパレスチナのあるグループは『Daffawis』と言われるパレスチナ人狩を始め、そのパレスチナ人を車に乗せて、イスラエル軍に突きだす予定である。サイミは無駄口を叩かず、周りを観察しているように見えるが。父親は「イスラエルIDを持ってるパレスチナ人でもそれがないパレスチナ人でもおんなじさ、パレスチナ人はパレスチナ人だ」と。父の言葉は馬耳東風で、サイミにとってウエストバンク在住のパレスチナ人の問題は関係ないようで無関心なのかもしれない。サイミは父親(サリム・ドゥ)の経験からくる言葉を『お父さんが若い時は検問閉鎖になれば、ゲートを超えてデモをしたものだと。イスラエルはパレスチナ人を2−3人殺しただけで、ゲートを上げたよと』この言葉をそのまま旧友アベッドに伝える。アベッドはこれを真剣に捉え、殺され役になろとしているパレスチナ人を二人連れて、サイミを訪問する。デモをしようと言うのに『比喩だ』とサイミはアヘッドに伝え、がっかりさせる。 結婚したばかりの弟Aziz夫婦はイスラエル軍によりインターネットの接続が切られているが、隣同士に座って、何かゲームのようなものをしている。Gen Zの典型的のようで会話の時間よりネットの時間のほうが楽しめるようだ。サイミは『シグナルがないけど何してる?』と。二人は悪い習慣が身についてしまって、スマホなしには生きていけないようだ。それに、何度も手を消毒するシーンを見せるから、この映画の時代はパンデミックの時代のようだ。二日以上も境界が閉鎖されると、食料もマーケットにはなくなり、食べるものがなくなる。電気もイスラエルにコントロールされているから、冷蔵庫、など電気製品は役に立たなそう。 サイミとモハメットAbu Ali(カリファ・ナトゥール)との見解の違いに一番興味があるので、この会話について書く。 電気が突然消えたため、ドアが開かなくなり、子供達がパニックになり、そのドアを開けて助けたのが、不法民、建設労働者のモハメットAbu Ali。サイミは彼に茶を持っていて労うが、アブアリと会話ができないというかお互いに会話の仕方をしらないと言ったほうがいいかな。サイミは二日仕事に行かなかったので解雇されてしまったが、その後、また、アブアリと話すチャンスがある。この会話はとても興味がある。 サイミはアブアリとその息子を心配して、『悪党たちが、集めてるよ。ーーYour people』と言うところが変。 サイミの伴侶とお父さんやに言わせれば、パレスチナ人はパレスチナ人でどのパレスチナ人も同じなのだ。この温度差がおかしい。サイミは自分はパレスチナ人だという認識がない。イスラエルで働いていたけど、解雇されたんだよ。解雇されてなくても、パレスチナ人という認識がない。サイミは自分はアブアリとは違うという認識なんだね。でも、ここで初めて、『自己中で重要人物である意識が高い』と村人がサミイのことを言うと、アベッドが言ったけど、サイミの自尊心は揺るがされた。父親や伴侶の言葉は彼の心を変えなかったのに。他人に言われて初めて気づいたんだよ。 アブアリの答えはもっとユニークさ。『Us, people? 』と。 彼はパレスチナ人全体を指している。だから、サイミも含めてと言う意味だ。アブアリはイスラエルとパレスチナ(アラブ)の関係で見ている。 サイミは『That's not what I meant』と。『中に入れ、そうするば、逃げたと言うよ』と続ける。 アブアリは なぜと不思議がる。サイミは『悪党グループが、あなたたちをイスラエルに突き出すよ』と。 ここで、アブアリは サイミに仕事はと聞き、コンピューター?C++Java? と。アブアリは父がコンピューターなんて勉強したって、何にも役に立たないよと言ったけど、それが正しかったと。 アブアリはここで衝撃的な言葉を吐く。『パレスチナ人の囚人になるかユダヤ人の囚人になるか、そんなんこと気にしてると思う?』と。 確かに。アブアリの立場から見れば、ウエストバンクのここは不法民として扱われ、ユダヤ人のところに行っても不法民で、優秀でも、自由に仕事も選べず、息子にも何も与えてあげられず、どこでも監獄の中にいる状態なんだよね。 サイミはなんでここに引っ越してきたと聞くが、アブアリはそれに応えず、みんなそれぞれの監獄(檻)を持っていると。そうだね、私だって、自分の監獄を持ってるんだよね。 監獄(檻)の意味は、自分の文化や立場で規制されて自由にならない行動の範囲だと私は解釈した。サイミもここで境界閉鎖でエルサレムに戻れないし、解雇されたからこれからどうなるかわからない。アブアリとのここでの会話は、サイミは初めて自分はイスラエルーパレスチナ人ではなく、他のパレスチナ人と同じだと気づく感激的なシーンだ。サイミの父親と伴侶と初めて心が通じたね。一番好きなシーンだ。 アベッドを中心に静かなデモが始まった。悪党グループは境界閉鎖の問題を市民のデモによって解決されては困る。地方議会のようなところで不法民の問題を解決させたいと思っている。私の理解では不法民をイスラエルの牢獄に人質として送れば、境界閉鎖を解消してもらえると思っていると思う。でも、アベッドたち、デモに参加している市民はWe are Isreal Arabs.と言って、サイミの父親やサイミの伴侶と同じ考えで、不法民も我々も同じだと主張していると思う。 旧友アベッドは商売の武器、新車バンを悪党に焼かれ、伴侶、ナイミにも拒絶され、自分の行き場を失ってしまった。傷心で、夜中、彼は境界に辿り着く。そこではイスラエル兵士が仮眠を取ってる。アベッドは兵士を脅かすつもりだったのかもしれない。目を覚まさせるつもりだったのかもしれない。私にはわからない。しかし、結果は。サイミの父親の言葉『検問閉鎖になればお父さんが若い時はゲートを超えてデモをしたものだ。イスラエル兵士はパレスチナ人を2−3人殺しただけで、ゲートを上げたよ』と。 皮肉なことにサイミの父親のいう通りになってしまった。翌朝、一人一人....が境界に向かって歩いていく。 パレスチナ人を殺したから、境界の閉鎖は 終わった。アベッドが生け贄になって。

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