「命を削り、作品を遺す」tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン! コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)
命を削り、作品を遺す
1 後に大ヒットミュ−ジカルを残したジョン・ラ−ソン。世に出るまでの苦悩の日々と周囲の人との交流を描く。同名ミュ−ジカルの映画化作品。
2 この映画には、色んな要素が含まれていた。ベ−スとなっているのは、全体を通じたミュージカル映画としての歌と演奏の魅力、そこにアルバイトしながら成功を夢見て創作に取り組む若者の苦闘の姿、主人公と共に暮らしたり働いた仲間や恋人との濃密な人間関係、ゲイが未だタブ-視されていた時代にあっても自然な形で作品の中に登場させた先見性、才能が認められても商業的な価値とは別に捉えるシビアなショ-ビズの実態が散りばめられていた。
そうしたことで、作品としての深みと厚さが増したと思う。
3 主人公は苦心の末に創り上げたミュ−ジカルを業界人向けにお披露目したが、公演のオファーは得られず、夢を諦めかけた。
その時、三人の言葉が彼に力を与えた。
一つは、俳優の夢を諦め広告代理店に就職した友人の言葉。これに彼は恐らく打ちのめされたと思われる。もう一つはエ−ジェントの女性からの言葉。この作品のきっかけになったのだろう。そしてこの世界のレジェンドの励ましの言葉。これらがなければ、今回の作品はなかった。
4失意から立ち直った彼は、友人や恋人とともに晴れやかな顔で30歳の誕生日を迎える。直後、その後のラ−ソンの業績と急逝が後日譚的に紹介され映画は終わる。作者は死んでも作品は残るが、如何に命を削っていたのかに思いが至りしみじみとなる。
それほどに劇中の歌曲は、いずれも素晴らしい。ホリディブランチの歌、アパートの室内でボ−ボ−ボ−と歌うナンバーなど独創的でポップ。水中でひらめき最後のピ−スとなった作品はとても美しかった。
5ラ-ソンを演じたガ−フィルドは表情豊かに演じ、歌と演奏も見事であった。
ゲイで黒人の友人、もどかしい恋愛関係の恋びと、食堂の赤毛の仲間など周囲の人々も印象に残った。