「日本にもあった!知られざる難民問題を浮き彫りにした衝撃作!!」マイスモールランド バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
日本にもあった!知られざる難民問題を浮き彫りにした衝撃作!!
「奇跡体験!アンビリバボー」の再現VTRや『日本以外全部沈没』などの河崎実作品等でお馴染み、外タレを多く抱える稲川素子事務所に所属していた際に注目を集めた嵐莉菜。
その後、事務所を移籍し、モデルとしても活躍していたが、ついに映画初出演を果たすことに。『日本以外全部沈没』のようなネタ映画で主演を務めたデルチャ・ミハエラ・ガブリエラとはまた少し違っていて、外タレ出身としては、かなり異例の出世ではないだろうか。
そんなことは置いといて、今作は日本の闇を描いた、かなり重圧な物語となっている。
埼玉には、実際にクルド人が多く住んでおり、そこにはコミニティも多く存在している。このクルドとは、かつてあった国だが戦争によって失われしまった国だ(劇中でも説明される)。今のウクライナ軍事侵攻と通じる部分もあり、また多くの戦争難民が出てしまっている現状がある。
国で地獄を味わった人たちが、移住先でも地獄を味わうというのは、あってはならないことだ。しかも世界的には安全な国として、外国人を受け入れる国として、寛容な姿勢をみせている日本で、そんなことが起きているとは信じがたい部分もあるが、近年、その日本の闇が浮き彫りになってきている。
記憶に新しいのは、2021年3月6日に、名古屋入国管理局の施設で、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったことだ。どういった経緯で不法滞在扱いとなり、収容後もどう扱われていたのかなど、はっきりとした情報が開示されていない。
それに加え、茨城県牛久市にある出入国在留管理庁入国者収容所東日本入国管理センターの実態に迫った、ドキュメンタリー映画『牛久』(2021)も話題となった。
日本の難民に対する態度が意図的に行われているような、悪意があるとは言えないが、制度がガタガタの状態で放置されてるというのも罪であって、先日橋本徹が報道番組で「日本はウクライナの難民もどんどん受け入れればいい」と、おそらく正義感から言っていたのだろうが、正直言って、こんな管理が行き届いていない日本に受け入れたところで二次被害を及ぼすだけではないだろうか…….。とも思わせる衝撃の事実が自然に描かれている。
嵐莉菜演じるサーリャは、幼い頃から日本で育っており、ほぼ日本人として生活しているが、外見は外国人として見られてしまう。「外国人だから綺麗」みたいな意味で多用される、日本人が良かれと思って無意識に発している外国人びいき、外国人差別(外国人という表現事態がいけないのかもしれない)が、逆に疎外感を感じさせてしまう。
それも当然な話で、自分は日本人だと思っているし、ルーツといわれても前の世代の話。若い世代にとって実感などほとんどない。さらにその弟、妹ともなればなおさらだ。ちなみに自分には故郷がない、国がないという空白感は、ジャスティン・チョンが主演・監督・脚本を務めた『ブルー・バイユー』でも描かれていた。
サーリャは疎外感を感じながらも、自分なりに心の中で処理していたが、それを突き詰められるような事態に発展していくことから、日常は一気に崩れ去ってしまう。
今まで承認されていた難民申請が突如無効になり、路頭迷うことになったサーリャたち家族。埼玉から出ることができない、仕事をすることも許されないといった理不尽すぎるルールから、生活に困窮していく様子がじわじわと描かれていく。
裁判で異議を申し出ることも可能だが、それには多大な労力と時間が必要となる。難民の人々が、数か月働けないとなると、生きていくこともままならない。そこで少しでも働いてしまうと、不法行為とされて収監されてしまうのだ。
このように、「不法滞在」と言っても、犯罪に関わっているとは限らず、日本のあやふやでガダガタな制度によって「不法」とされた人々もいることを知ってもらいたい。
日本人として、 これが現状なんだと受け入れなければならない日本の暗部が見えてくるのは、観ていて非常に心苦しい。
嵐莉菜自身、幼い頃から日本で育っているのに外国人タレントとして扱われてきた経験や日常で感じることが役にそのまま反映されており、演技ではないリアルさを醸しだしている。
監督の川和田恵真もイギリスとのハーフであり、その境遇を理解しているからこそ描き出せる部分も多かったのだろう。さらにサーリャの父、妹、弟を演じているアラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデーは、嵐莉菜の実際の家族だ。
役名こそ違うものの、演じているのは自分自身でもある。特に幼いリオンにとっては、これが映画なのか現実なのかの区別がはっきりつく年齢ではないため、父親に起きる悲劇を知ったとき、動揺を隠せなかったようだ。
これは演技だから現実ではないが、現実に苦しんでいる難民の人たちが日本にはいるということを理解しなければならない……。