劇場公開日 2022年5月6日

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「日本の入管に杉原千畝はいないのだ」マイスモールランド 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0日本の入管に杉原千畝はいないのだ

2022年5月20日
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鑑賞方法:映画館

 内容が今年(2022年)の2月に公開された映画「牛久」に直結していると感じた。「牛久」は茨城県の牛久市にある不法滞在者を収監する施設、東日本入国管理センターを描いた映画だ。
 収監施設は閉鎖的な空間であり、必然的に職員も収容者もストレスが溜まる。そこで職員はストレスを収容者に対する暴力で解消している。ナチスのアウシュビッツ収容所と同じだ。つまり牛久の入国管理センターの実態は、強制収容所である。

 牛久強制収容所の管轄は出入国在留管理局、つまり入管だ。入管は管理局であって援助局ではないから、滅多に難民認定しない。日本の難民認定率は0.4%で、欧米の15%〜50%に比べて極端に低い。ましてクルド人は国籍がまちまちだということもあってか、これまで一度も入管に難民認定されたことがない。2005年には国連難民高等弁務官事務所が難民と認めたクルド人親子が、入管によって強制送還された記録がある。

 今年の5月13日、入管は前年2021年の難民認定者数を発表した。難民認定されたのは、2020年から27人増えて74人だった。それでも認定率は0.7%だ。難民認定外で在留を許可されたのは580人とのことだが、この数字は、6ヶ月しか滞在許可を与えられない緊急避難措置の対象者を含めた水増しではないかとの疑問がある。しかし入管は内訳を発表しない。
 入管は難民に厳しい一方、技能実習生の受け入れについては甘い。アベシンゾウが人手不足という産業界の意向を受けて、入管法を変えたのだ。そして「技能実習生」という名の奴隷労働者が日本にやってきた。3年間の実習期間が終了したら、2年間は延長して働くことができるが、その期間が過ぎたら、自動的に不法滞在者となる。緊急避難措置の6ヶ月を過ぎても日本にいたら、見つかった場合に強制送還となる。
 見つからなくても、日本国籍も住所もない外国人には仕事の機会はない。帰国するか、自殺するか、犯罪に走るかのどれかだ。実際に外国人による犯罪の半数以上は不法滞在者によるものである。こうなることは目に見えていながら、入管法を変えてしまったアベシンゾウの罪は大きい。多分バカだから何も考えていないのだろう。

 本作品は深刻な難民問題を扱っていながらも、高校三年生の青春を明るく、しかし現実的に描いている。主演の嵐莉菜は初めて見たが、なかなかの演技力だ。美人すぎて当面は役柄が限られるかもしれないが、北川景子みたいにエキセントリックな役(「謎解きはディナーのあとで」「家売るオンナ」など)を演じて一皮むけることもある。美人に演じられない役はない。

 冒頭の落書きみたいな線が埼玉県の形だとわかった人は沢山いたと思う。東京出入国管理局さいたま出張所はさいたま新都心駅から徒歩8分。さいたま第2法務総合庁舎内にある。働いている人は法務省の職員だから、基本的に解雇などはなく、給料が遅れたりすることもない。役人だから手当がたくさんつく。安全圏で暮らしている訳だ。職員から見たら難民の状況など対岸の火事である。毎日の職務さえこなして給料をもらって安全無事に生きられればそれでいい。強制送還された難民の運命など知ったこっちゃないのだ。大半の職員がそう考えているから、難民認定率が0.4%なのだろう。日本の入管に杉原千畝はいないのだ。

耶馬英彦