「【誘拐ビジネスが蔓延る国、メキシコ。ある日、突然娘を誘拐された母親が、自力で捜索する姿を、ダルデンヌスタイルで描いた作品。あのラストシーンをどう解釈するかは、観る側に委ねられる映画でもある。】」母の聖戦 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【誘拐ビジネスが蔓延る国、メキシコ。ある日、突然娘を誘拐された母親が、自力で捜索する姿を、ダルデンヌスタイルで描いた作品。あのラストシーンをどう解釈するかは、観る側に委ねられる映画でもある。】
ー 今作では、娘ラウラを誘拐された夫と別居中のシエロ(アルセリア・ラミレス)が娘を探す姿を、ドキュメンタリータッチで劇伴は一切なく追い続ける。
今作の共同プロデューサーに名を連ねるダルデンヌ兄弟の、映画製作スタイルである。故に、この作品は冒頭から緊張感が続くのである。-
■メキシコのある町で暮らす夫と別居中のシエロの娘ラウラが犯罪組織に誘拐された。誘拐犯の要求に従い、20万ペソ近い大金を工面して身代金を払うが娘は帰ってこない。
警察に相談しても多数の誘拐事件が発生しているので事務的な対応をされる。軍隊の協力を取り付けるも最後は、自力で娘を取り戻すことを誓ったシエロは犯罪組織の調査に乗り出す。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・ご存じの通り、メキシコマフィアの誘拐ビジネスは有名である。映画で言えば、リドリースコットの「悪の法則」「ボーダーライン」シリーズでその恐ろしさが描かれている。
「悪の法則」で、ブラッド・ピッドが演じた人間の言葉は今でも覚えている。
”奴らは、人間の皮を被っているが、中身は別の生き物だ。”そして、ぺネルぺ・クルス演じる美女は誘拐され、斬首されてゴミ捨て場に捨てられるのである。余りにも衝撃的な映画だったので、良く覚えている。
・今作でも同様の事が起こる。但し、殺害の現場は描かれずに、只管にシエロが娘を探す姿が描かれる。
彼女が、軍の協力を得ながら真相に近づいていく様が、恐ろしい。友人と思っていた普通のお爺さんが誘拐組織に情報を流していたり、捜索途中で死体安置所に行けば首だけの女性の頭部が二つ、無造作に置かれている。
これらのシーンを観ると、メキシコでは誘拐ビジネスが常態化していて、捜査側も捜査が追い付かないのか、感性が麻痺しているのが良く分かる。
・又、シエロに金を要求して来た若い刺青をした男達が、シエロの家に銃弾を撃ち込んだり、車に火を付けたりしても、警察はどこかノンビリしている。
後半、その男の農場でシエロと別居中の夫が土を掘ると、人間の指が出てくるシーンも怖い。警察によるとその”隠し墓地”には50体以上の人間が埋められていた事が明らかになるが、男は妻と幼子と普通に暮らしているのである。
そして、警察に拘束されても、男はシエラに対し薄ら笑いを浮かべながら自分の身を案じろとふてぶてしく言うのである。
<今作では、メキシコで常態化している誘拐ビジネスの闇が、装飾を一切廃したダルデンヌタッチで描かれる。それが恐ろしさを倍加させているのである。
”隠し墓地”で見つかったあばら骨がラウラのモノだと説明する警察。他にはDNAが合致するものは無いという。そんな馬鹿な。
ラストシーンは見る側に解釈を委ねるが、シエロの表情を観ると、私はマフィアではないと思う。ラウラであると信じたくなる映画である。>