劇場公開日 2022年1月14日

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「豪華キャストで描く同族経営の黄昏」ハウス・オブ・グッチ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5豪華キャストで描く同族経営の黄昏

2022年1月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 顔ぶれを見るだけで、濃厚な人間ドラマの予感に胸がざわつく迫力のキャスティング。予想に反して比較的大人しい展開だが、演技合戦とグッチのゴシップネタを楽しむノリで観れば退屈はしない。
 グッチの御曹司マウリツィオとパトリツィアの出会いから、一族が崩壊してゆくまでの概ね四半世紀、それなりに長期間の出来事が描かれる。

 一癖ある役者たちの競り合いの中、レディー・ガガ演じるパトリツィアの押しの強さが際立つ。
 彼女のキャラクターは、巨万の富への欲望だけでなく、個人的な野心やマウリツィオへの愛、一族の一員としてのプライドなど、様々な強い感情を抱えている。
 最初にマウリツィオがグッチと名乗った時は、確かに彼女の目の色が変わったように見えた。しかし、父に結婚を反対された彼が、家も財産も捨ててきたと言い荷物を持って転がり込んでも、彼女は受け入れて結婚し、家業を手伝わせた。家を出たと言っても遺産くらいはもらえるだろうという計算があったのか、それともその頃の彼女はまだ純粋だったのだろうか。
 義父のアルドが偽造品に無頓着だったのに対し、ブランド価値の毀損を恐れてパトリツィアは怒った。一族の一員としてのブランドへの誇りを感じた一方、強く口出しする態度に彼女の驕りもかいま見えた。
 ただ、最終的にあのような行動に至ったということは、根底には最後まで、いびつで自己中心的ではあるものの、打算ではない愛があったのだろう。典型的毒婦でお近づきにはなりたくないが、どいつもこいつも……という感じの登場人物たちの中で、ひときわバイタリティ溢れる生き方にはスクリーンで映える魅力があった。

 私のお目当てアル・パチーノは期待通りの貫禄だった。帝王の威厳があって、ふてぶてしくて時にチャーミング。日本市場に目をつけたアルドが「コンニチハ!」「御殿場!」などと連呼するのは笑ってしまった。
 そして、……誰?え、ジャレッド・レト?
 アレッサンドロ・ミケーレが携わるグッチコレクションではランウェイの常連であるジャレッドは、パオロ役を自ら志願し、毎回特殊メイクに6時間かけたそうだ。そんなご縁があるのにあのお馬鹿っぷり(褒め言葉)。アル・パチーノとの絡みがちょっとコントっぽくて微笑ましい。
 ご縁と言えばよく当たる占い師、ある意味一番罪深いピーナ役のサルマ・ハエックは、実生活ではグッチを傘下に持つコングロマリット、ケリングの会長の妻。失礼ながらパトリツィアとちょっとだけイメージがかぶる。
 最初はうぶそうだったマウリツィオがパトリツィアに取り込まれ、ブランドの経営に関わる中で運命に翻弄される様をスマートなたたずまいで演じたアダム・ドライバーもよかった。

 豪奢なお屋敷やめくるめくファッションが出てくるのに、全般的にちょっと画面が暗い感じがしたのが残念。気のせいかな。

ニコ