「作品全体を占める雰囲気が良い」雨を告げる漂流団地 siiさんの映画レビュー(感想・評価)
作品全体を占める雰囲気が良い
ペンギンハイウェイと同じ柔らかい人物作画と明るく澄んだ夏の空気感を感じる背景が最高の作品。
他評価のレビューではすとーちー上の説明の少なさに難色を示されている人が多いようだけど個人的にはそれほど気になるレベルではなかったので楽しめた。ペンギンハイウェイでも結局のところお姉さんの正体がきちんと説明されずに終わった記憶があるがそういう点が気にならずにあの作品が楽しめた人なら今作も十分に楽しめると思う。
ペンギンハイウェイと同様作画のやわらかさや子供が主人公として活躍する点など、一見子供向け映画のようでかなり大人向けに作られた作品だと感じた。例えば今作の大きなテーマにはノスタルジーが挙げられる点。
子供のころに住んでいた団地、遊びに行った遊園地、プール施設など大人になった今施設自体が取り壊されて無くなってしまったり、もう行くことが無くなってしまったが、幼いころの自分を構成していたもの、それは多くの人が共通して持っているものだと思う。
今作はそういった思い出の詰まった建物が次々と登場し、描かれているキャラクターは少ないがそういったすべての建物に子供の姿をした付喪神が存在している。具体的に描写される付喪神は団地のノッポと遊園地(観覧車)の付喪神だけだが、プール施設で非常食をくれたのも付喪神だろうし、おそらく最初に流れ去っていった施設にも存在しているのだと思う。
そうして施設(建物)に人格を与えることでただの建物にしか過ぎないものを自分を作り育ててくれた一部なのだと認識し、感謝の念を抱かさてくれる付喪神という昔の人が作り出した概念を上手く使ったストーリーで、個人的には団地のノッポよりも終盤に登場する令依菜が幼いころに父親に連れて行ってもらっていた遊園地が一番感情移入できる施設で、幼いころに連れて行ってもらった自身の記憶を思い返すことが出来た。
そういった施設は自分の意志ではどうしようもなく無くなっていってしまう存在だが、形自体は消えてしまっても、そこで育まれた友情や愛情、思い出は消えることなく自分たちの中に残り続けている。ありきたりなテーマではあるが一つの個人が所有するモノではなく施設という日常風景の一部に焦点を当てた今作は昭和時代に作られた建物が次々と取り壊され新しい景色に代わっていく今の時代に過去を振り返り、温かい気持ちでノスタルジーに浸ることが出来るいい作品だと感じた。