劇場公開日 2023年2月4日

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「映画「茶飲友達」のバトンの行方」茶飲友達 grumaruさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画「茶飲友達」のバトンの行方

2023年8月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

■シニアの性というタブー
シニアは性欲をもたない、性的なスキンシップを求めないという先入観、そうあって欲しいという願望、さらにそれが社会的なタブーになっています。
しかし、中世の昔から年老いた男の悪癖は「強欲と好色」(ちなみに、女性は「虚栄心」)といわれるように、現実に生きるシニアとの間に大きなギャップを生んでいます。

この映画は、特に映像を通して、そこに切り込みます。
外山監督のシニアの婚活をテーマにした前作『燦々』でも、シニアの性欲のタブーに触れていましたが、今回はそれを通り越してシニアの「売春」という日常を描くことで、このタブーの解体に成功したように思えます。

ただ、性欲に限らず、今なお「老人」や「高齢者」にまつわる固定観念は、数多く残っていてシニアの活動を縛っています。
例えば、老人は若者の手本になる賢人たれ。ある年齢になったら引退して老後をすごす、などなど・・。
そう考えると、性のタブーの問題は、氷山の一角だともいえます。

■二つの異なるテーマが混在
この映画は、2013年に警視庁に摘発された実在のビジネスが元になっています。
ただし、若者が登場するところは映画のオリジナルです。実際の売春組織の胴元は若者ではなく70歳の男性です。
そのことで、この映画は単にシニアのタブーを扱うだけでなく、現代社会の異なる一面を描く作品へと拡がりをみせます。

ティ・フレンドに集う若者、高齢女性、高齢男性に共通しているのは、孤独で、居場所がないことです。他人とのつながりが稀薄で、日常生活にどうしても生きている実感が得られない。
そこに主人公マナが売春ビジネスを成功させながら、持ち前の求心力を発揮してメンバーを取り込み疑似家族(「ファミリー」)を築いていきます。

しかし、そこには血縁家族が持つような絶対的価値観が備わっていません。子どもを生む・生まないという女性メンバーが抱える問題に答えが出せず、結局摘発を契機に疑似家族は崩壊していきます。
ダメなものはダメといってくれる居場所がないまま人は生きていけるのか、考えさせられますが、一方でシニアのタブーの問題は、オブラートに包まれてしまった感があります。

このように、この映画には「シニアのタブー」、「孤独と絆」という明らかに異なる二つがテーマが並存しています。

■持続可能な取り組みへのバトン
しかし、超長寿化による影響という点でみると、二つのテーマは同根といえるかもしれません。

2003年頃、この映画の元になった売春ビジネスがスタートし、その10年後の2013年、会員が1000人を超えるなどビジネスが拡大、警視庁に摘発されました。そしてさらに10年後の2023年、外山監督が映画化します。

映画公開に至る20年間、日本には様々な変化がありました。その中で平均寿命は3歳程度伸び、「人生100年時代」という言葉が定着しました。

超長寿化には功罪があります。特にシニアの生きにくさが増している点は見逃せません。
その要因の一つが、シニアが持つアクティビティと社会とのミスマッチです。シニアが自立して生活する期間が長期化する一方、60歳で引退し老後を迎えるという社会システムは変わらない。シニアのエネルギーの使い場所がないという問題が浮上しています。
そればかりか、シニアをめぐるタブーが無言の圧力となって、シニアの活力を奪っています。

もう一つ、居場所がない、あるいは孤独や孤立の問題があります。そして、この問題は若者とは違った形で無慈悲に訪れます。
シニア世代は、どの世代と比較しても経済的、社会的、身体的に多様です。その中で一定割合を占める貧困の問題は、より深刻です。また、長寿化に伴い、夫の死別後の寡婦期間が長期化しています。
こうした孤独や孤立のなかで「老い」と直面することが、シニアの生きる希望を失わせます。

その隙間を埋めるべく半ば必然的に売春ビジネスが誕生・拡大しました。そこで働く高齢女性は、ティー・フレンド同様、仕事を持ち、居場所を得ることで、そんな不安を忘れられていたかもしれません。
しかし、それは長続きしなかった。

この消えかけたベクトルを10年ぶりに拾ってくれたのがこの映画といえます。
今後は、シニアが活躍できる場所や、家族に代わる居場所づくりに、持続可能な形で取り組んでいく必要があります。
そんな新しい課題に取り組む人を待つ。そんな映画だと思います。

2nd Life Stories