「フィルムカメラと紙巻たばこ」ユンヒへ Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
フィルムカメラと紙巻たばこ
中村優子と瀧内公美が二人で道を歩くシーンがあるんだけど「二人は惹かれ合ってるんだ」って分かるのね。直接的な台詞はないんだけど。それで自然なの。「クィアの恋だ」って感じじゃなくて、「ジュンとリョウコは互いに好きなんだ。うまくいくといいな」って感じる。(しかし『分かってるけど何も言わないで』と遠回しにジュンが言い、二人の恋は発展しない。このシーンもすごい。)
心象描写を台詞以外でやるのがすごいんだよね。クライマックスの『ユンヒ?』も長い間をつかって、みつめあって涙を流すだけっていう。すごい。
小樽から戻って写真を整理すると『笑ってる写真が一枚もない』って娘に言われるんだけど、本当のラストに、食堂の仕事に応募するときは笑顔。色々と抱えていたものがおろされて、人生が始まるんだと思ったよ。
旦那さんが再婚を報告するシーンもいい。厳しい対応をしていたユンヒが『良かった。本当に良かった』と安堵して、旦那さんは『お前も幸せになってくれ』と言って泣く。観るほうが色々と解釈できるシーンで良かった。
煙草を吸うユンヒがかっこいいんだよね。カッコよさの表現に煙草を使うのは久しぶりに観た。それと娘が写真を撮るのもフィルムカメラ。
なんでフィルムカメラと紙巻たばこを使うのか分からないけど、ユンヒとジュンの高校時代の恋愛に戻るから、舞台装置としてその頃のものを出してるのかな。
最後のユンヒからジュンへの手紙で、ユンヒの辛い人生が語られるのね。周囲の無理解(しかし、時代背景を考えるとそう言い放つのも厳しい面はある)によって、多くの人が不幸になる。別れた旦那さんもかなり辛いね。
でもそれは、クィアの恋だからじゃないね。
ヘテロ同士の恋だろうがなんだろうが、周囲が認めずに強引に二人を引き裂くと誰かの幸せを奪うことがある。このケースでは、周囲が認めない理由がたまたまクィアの恋だったという風に観てて思った。
クィアの恋を扱いながら、そこを目立たせず、自然に描いてきたのが、監督の力量がすごいと思ったよ。