「『ラストレター』みたいなお話だと油断してたら盛大に足元を掬われるので要注意!ポスタービジュアルとは全く異なる複雑な余韻を残す凶悪なのに美しくて優しい問題作」雨とあなたの物語 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
『ラストレター』みたいなお話だと油断してたら盛大に足元を掬われるので要注意!ポスタービジュアルとは全く異なる複雑な余韻を残す凶悪なのに美しくて優しい問題作
舞台は2003年のソウル。2浪目を迎えたヨンホは同じ2浪生で勝ち気な女子スジンと予備校で出会う。強引なスジンに誘われるがままに友達以上恋人未満のような微妙な関係になる2人だったが、ヨンホには小学校の時に転校してしまったソヨンという忘れがたい女の子がいた。同級生のつてで転校先の釜山の住所を突き止めたヨンホは思い切って手紙を送るが、実はソヨンは重い病気で入院中であり手紙を受け取ったソヨンの妹ソヒは姉に代わってヨンホに“質問しない、会いたいと言わない、会いに来ない“という条件をつけて文通を始める。文通を続ける中でヨンホの想いはどんどんと膨らみ、ソヨンに会いたい気持ちを抑えられず苦肉の策として“大晦日の日に雨が降ったら会おう“と提案をするが、待ちに待った大晦日は快晴で・・・。
という岩井俊二監督の『ラストレター』や新海誠監督の『言の葉の庭』みたいなあらすじかなと観る前に勘繰っていて、実際なんだかそんな感じのストーリーが始まるのですが、登場人物の誰にもうっかり感情移入できない微かな違和感がずっと漂っていてかなり戸惑いました。そんな不協和音も気にならなくなり2003年と2011年の間を自在に行ったり来たりしながら展開するいかにも韓流らしいキラキラした物語に身を委ねているとものすごくさりげなくかつ軽やかに卓袱台がパタンとひっくり返されて、さすがに“オーマイガー・・・”と普段全く口にすることのない言葉が喉から転がり出てきました。よくもまあこんな凶悪で美しい話を思いついたなと呆気に取られると同時に果たしてこれは美しいのか、一番残酷じゃないのかと様々な疑問符が脳内を駆け巡りました。それくらい複雑な余韻を残す問題作です。じゃあダメなのかというと全然そんなことはなくて、ラブストーリーが大好きな人にこそ観て欲しい。メインストーリーの周りに散りばめられていた様々な人々が織りなす痛烈な喜怒哀楽が甘味をこれでもかと引き立てています。
個人的に胸を打たれたのが自分勝手なタイミングでヨンホを振り回すスジンの存在。自分の気持ちに忠実でマイペース、一途な思いを忘れないヨンホに付かず離れず寄り添いながら深い悲しみを湛えた瞳をきらりと輝かせるカン・ソラの絶妙な演技、メインストーリーがどこかに飛んでいってしまいそうな圧倒的な存在感にすっかり心を奪われました。
ちなみに一番厄介なのはこのポスタービジュアル。こんなシーンどこにもないです。あと鑑賞特典としてヨンホを演じたカン・ハヌルの生写真をもらいました。レトロすぎて逆に新鮮でした。