「希望に満ち溢れた光のサンバ」よだかの片想い 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
希望に満ち溢れた光のサンバ
顔半分にアザがあるアイコ。
彼女はそのアザをコンプレックスに感じながら、大学院で研究を続けていた。
ある時、アザと共に生きてきたアイコの実体験が本になり、その反響ぶりから映画化の話が持ち上がる
友人の担当編集者を介して、アイコは映画監督の飛坂と知り合い、彼に少しずつ惹かれていくのだが…
思っていたよりも“アザのあるアイコ”の話だった。
アザも本人の個性。
最終的にはそこへ辿り着くが、実際本人がそれを認めるのにはかなり時間を要する。
一つの恋を通して、自己のコンプレックスと向き合い、真っ直ぐ自分を生きていく物語。
小学生の頃、同級生にアザを琵琶湖みたいと揶揄された出来事。
実は注目してもらえたことが嬉しかったが、普段は優しい教師がその同級生に対して「なんて酷いこと言うんだ。」と言い放ったのがショックだったというところがやはり印象的。
自分の顔は酷いことなのかと認識してしまったというリアルで残酷なエピソードが胸に刺さった。
よだかはなぜ死を選んでまでも自分の名前を捨てなかったのか。
宮沢賢治のよだかの星は、恥ずかしながらちゃんと読んだことはない。
ただ、1番読んでみたい宮沢賢治の作品だ。
タイトルの通り、アイコがそれに自己投影されている。
レーザー治療を断り、アザを残して生きていくと決断した彼女。
その決意をした彼女だからこそあそこまでミュウ先輩を救ったわけだし、そんな先輩にメイクとサンバのステップを教えてもらったラストシーンは紛れもなく救いだった。
アザに限らず、コンプレックスを自分の個性だと自認するのはなかなか難しいことではあると思う。
でも、自分を捨てず自分らしく生きて欲しい。
生に満ち溢れたあの屋上でのアイコの舞は観た者の救いになると思った。
今回はほとんど触れないが、恋愛パートも静かで濃密な雰囲気が心地良い。
中島歩の唯一無二の芝居が好きだ。
低音から感じられる重厚感とは裏腹に芯がぶれているような男。
今作でもハマっていた。
脇もなかなか豪華。
中でも個人的イチオシの若手俳優、青木柚。
今作でも強い印象を残していた。
映画としての出来は素晴らしいんだけど、個人的に記憶に残るようなインパクトはあまり感じられなかった。
ただそれで良いと思う。
何かに思い悩んだ時、いつかこんな映画あったな、また観てみようと思えるそんな映画だと感じた。