「ガンダムをベースにした家族の物語」機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 こーすぎあすさんの映画レビュー(感想・評価)
ガンダムをベースにした家族の物語
公開から1ヶ月近くたち、ようやく観てきました。
今作は機動戦士ガンダム第15話「ククルス・ドアンの島」が原作ですが、監督の安彦良和氏が再構成した映画となっています。
時系列や登場人物はオリジン版に準拠しています。
そのため、リュウ・ホセイではなくスレッガーがおり、ジムが配備されています。
ストーリー自体は”原典”を踏まえつつ、ドアンが保護する子供の人数が増えていたり、ドアンの元所属部隊ということでサザン・クロス隊が設定されたりと大きく膨らませてあります。(ブライトの階級も、軍艦の艦長としてはギリギリセーフレベルの少佐になっていたりします)
一見した感想ですが、以下の点が気になりました。
・ドアンが子供たちを保護した理由
・サザン・クロス隊の各員とドアンの関係性(特にセルマ。ドアンに敗れる際、涙を流していましたが、その涙の理由は映像だけでは不明確です)
上記2点は映像を観るだけでは視聴者には理解できず、映画単体としては不親切な部分と感じました。
(これは小説版で描かれている部分もあるということですので、ぜひ読んでみたいと思います)
一方、個人的に好きだと思うシーンは以下になります。
・アムロが行方不明になった後、WBクールが捜索のために色々と企む
・ゴップ元帥とマ・クベ中将の会談(タヌキとキツネの化かし合い)
・ドアンと子供たちの生活シーン
・ドアンを信頼し、心配するカーラ
・ブライトの中間管理職としての苦悩と、それをフォローするミライ
・オリジナル声優から交代したキャラクターたちも違和感なく、受け入れられる(とくに成田剣氏のブライト)
・サザン・クロス隊の市街地戦
・スレッガーの出オチ
他にも、シーンの数々には、ガンダムファンやオリジンファンを意識してると思われる描写や、安彦良和氏の漫画そのままな表現(目元や口元の細やかな動きなど)があり、マニアックなものも多数ありました。
全体として、一ガンダムファンとして心をくすぐられる描写に喜びつつ、安彦良和氏が今回の映画で描きたかったと思われることが気になりました。
それは、「家族の物語」。
WBでは、若手士官や訓練生、たまたま居合わせた民間人など、寄り合い所帯の編成で数々の激戦を生き延びる中で、通常の軍隊組織とは異質な、友情と愛情が入り混じったファミリーとなっていきます。
一方、ドアンとそれぞれの子供たちも、映画劇中では明確なエピソードは語られていませんが、あるきっかけで出会い共同生活を過ごす中で、強い信頼関係が結ばれている様子が窺えます。
戦争という異様な状況の下、生き残った者たちが寄り添い親愛を深め、協力していく様子を、ガンダムの世界観と人物たちを使って描いたのが今回の作品だったのではないかと思います。