「43年前とは違うのだよ、43年前とは!」機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
43年前とは違うのだよ、43年前とは!
まさか43年振りにファーストガンダムのリメイクを、しかも劇場版で観られるとは、もうそれだけで幸せです。正直、よりによって作画崩壊のネタ回の印象しかない、ククルス・ドアンのエピソードを劇場版にしたことは、ある意味「テレビアニメのリベンジが狙いか」と勘ぐりましたが、まったくそんなことはありませんでした。
大河ドラマのようなシリーズもののアニメを再編集して、ダイジェストで観せる手法は昔からあります。しかし、本作はその形をとらず、かといって単なるリメイクにもせず、「より強い戦力で自分を守ろうとすることへの警鐘」という、明確な意図をもってこのエピソードが選ばれたのだと思います。
ストーリーは、テレビ版を踏襲しながらも、ドアンの過去や連邦とジオンの戦略的背景も絡め、物語の奥行きを広げています。そんな中でも一貫して描かれるテーマは、武装による平和への警鐘、戦力に頼らない真の平和への願いではないかと思います。劇中、マ・クベが発する「パリは燃えているか?」という言葉も象徴的でした。物語のオチはテレビ版と同じなのですが、ここに至る経緯が丁寧に描かれているぶんだけ、ドアンに向けたアムロの言葉がより深く沁みます。
ガンダムに関する予備知識をもっていることが前提の展開なので、初心者にはやや敷居が高い部分もありますが、作品がもつテーマは十分に感じられると思います。その上で、往年のファンには、3Dモデリングされたモビルスーツのリアルな挙動が生み出す重量感や躍動感がたまりません。ガンダムやガンキャノンはもちろん、ドアンの駆る専用ザク、サザンクロス隊の高機動型ザク等、その強さと迫力が大スクリーンからびんびん伝わってきます。それだけに対峙したパイロットの恐怖も感じられ、作品テーマにもしっかりと寄与していると感じます。
キャストは、古谷徹さん、古川登志夫さん、強引に登場させた池田秀一さんら、往年のキャストがファンを喜ばせます。メインキャラを当時のキャストですべて固めることができなかったのはやや寂しさを感じますが、当時のキャストを思い起こさせる新キャストにも大満足です。一流の声優をずらりと並べたキャスティングに隙はありません。
折りしも、作品の舞台の一つであるオデッサのあるウクライナは、ロシアの侵攻により大きな被害を受け続けています。その一方で、諸外国に武器供与を求め、激しく抵抗しています。どうしたらこの憎しみの連鎖を断ち切ることができるのか、本作はその一つの答えを提示しているようにも思いますが、あまりにも理想的すぎる気もします。「悲しいけど、これ戦争なのよね」と聞こえてきそうです。