「【踊りとは何か】」名付けようのない踊り ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【踊りとは何か】
「踊り」や「ダンス」でイメージされる音楽やリズム、或いは、一定のルールに合わせて身体を動かす動作は、考えてみたら沢山ある。
本当に沢山ある。
この作品は、踊りやダンスとは何かを改めて考えたくなる作品だ。
田中泯さんを知ったのは映画「たそがれ清兵衛」だった。
この作品でも映される「たそがれぇ〜」の場面は、ものすごく印象に残るシーンだ。
その時はダンサーだとは知らなかった。
その後、田中泯さんのダンスを初めて観たのは、もう随分前なるが、Eテレ「Switch」の挟土秀平さんとの対談で、挟土秀平さんの作品の土壁の前での踊りだった。
それは、事前に用意されたものではなく、作品から受けた印象や感動を、その場で身体で表現したもので、伝統的な舞踊とはもちろん、より自由度の高いと考えていたヒップホップ、コンテンパラリーダンスとも異なり、人間の感情の奥底から湧き上がってくるような、なんとも言葉では形容し難いものだった。
当然、音楽やリズムに合わせたものではない。
それは、この映画で田田中泯さんの踊りを初めて見た人も同じような感覚を持つのではないかと思う。
この作品で明らかになる農作業を通じて獲得した肉体で表現することの意味は、人間が太古の昔に肉体を使って言葉の代わりに何か重要なことを伝えようとしていたという、田中泯さんの考えを裏付けるものだと思うし、更に、パリでの対話の田中泯さんの話を聞くと、僕でもちょっと理解できたような気になる。
田中泯さんの踊りをみた後に、ひとりのパリの女性からの「一緒に踊り出す人はいるか」という問いに、「子供の中にはいる」と。
すると、彼女は、「私たちも心の中では踊っている」と。
田中泯さんが、「それこそが重要だ」「ダンスは踊ってる自分と観ている人たちとの間に生まれるものだ」と。
音楽がなくても、リズムがなくても、ルールがなくても、成立する踊り。
そして、観る人々の心を掴み、揺さぶるもの。
名付けようのない踊り。
それは、ダンサーと観る人々の間に生まれる目に見えないダンスなのだ。
そして、これは多くの人々を踊りに導くのだ。