劇場公開日 2021年12月3日

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「批判を恐れぬ思い切りの良さは見習いたい」スティール・レイン 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0批判を恐れぬ思い切りの良さは見習いたい

2021年12月3日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

興奮

南北朝鮮統一をめぐる両国と米中そして日本の思惑から、竹島(韓国側呼称「独島」)近辺の海域で武力衝突の危機が高まる――という、かなり思い切った状況を描く意欲作だ。邦画では現代を舞台にしたミリタリーアクションはめったに作られないし、まれに実現したとしても、かわぐちかいじの漫画を実写映画化した「空母いぶき」(2019)のように、原作の中国と尖閣諸島を架空の国と島に置き換えるなど、現実の外交問題に関わる題材をストレートに描くことを避け、批判や抗議を受けるリスクをなるべくなくそうとする。軍事活劇のジャンルに限らず、現実にある難題をエンタメのフォーマットで描くことが問題提起や啓発につながるという側面もあるので、その意味では邦画界も見習うべき点があると思う。

さて本作では序盤、北朝鮮での首脳会談のため集まった米韓朝の元首3人が、クーデターを起こした北朝鮮軍の一派により拉致され、核武装した原潜に監禁される。日本では、中国側からひそかに資金援助を受けた右翼団体が、竹島奪回のため自衛隊を動かそうとしていた…。

懸命に状況打開を試みる誠実な韓国大統領、トランプをさらに軽薄にしたような米大統領、意外に真っ当なインテリの北朝鮮委員長の3人が、監禁された船室内で繰り広げる喜劇的なパートは少々やりすぎの感もあるが、コミックリリーフの効果は認められる。本作におけるヒーローは韓国大統領と原潜の副艦長、敵役はクーデター首謀者と日本(白竜が演じる右翼団体主宰者と自衛隊)なので、日本の観客にはこの設定が居心地の悪さを伴うが、フィクションと割り切れば、サスペンスに満ちた展開はそれなりに引き込まれる。“潜水艦アクション”と呼べる場面は後半に入ってからで多くはないものの、爆雷や魚雷から回避する操艦や敵艦への反撃など、定番要素を押さえたシーンも悪くない。話の展開としては、ジェラルド・バトラー主演の「ハンターキラー 潜航せよ」(2018)に近いところもある。このサブジャンルのファンなら、そこそこ楽しめるのではないか。

高森 郁哉